【Chapter 12】

 『ララミー・タウン』と書かれたゲートをくぐる、馬に乗ったならず者の集団。蹂躙するように駆けるわけではなく、馬の歩みはあくまで緩やかだが、その数もその異質さも、まさしく侵略者のものだ。
 二十人を超える手下を従え、白い馬で先頭を進むゲール・ブレナン。グレーの三つ揃い、真紅のリボンタイ。ベージュ色のカウボーイハットの下、落ち窪んだ双眸の奥、鮮やかな青い瞳が放つ暗い色。腰のホルスターからは、六芒星の刻まれたコルト・キャバルリーのグリップが覗く。
 人通りが一時的に消えた町中を一団は進む。進んだ先に銀行がある。銀行の前には、頭取や銀行員など数人が、緊張した面持ちで立っている。
 ゲールは軽く手綱を引き、馬を止めて、唇の端を頬に食い込ませるように上げた。手下の何人かが馬を降りる。
「ゆっくり来てやったんだ。カネは用意できてるな?」
 ゲールの重い声が広い道に響き、頭取が頷き、手下たちが銀行の中へと入ってゆく。


 キャットが酒場の階段を駆け登る。廊下を大股の早足で歩いて、二階の宿の一室を乱暴にノックして、返事も待たずに扉を開ける。
「ゲールが」
 部屋の中に踏み込み、まさに今ベッドから降りようとしているレダーナと目が合う。レダーナは上半身になにも身につけていなかった。キャットは一瞬言葉と足を止めたが、眉を寄せながら覗かせた舌を軽く噛み、首を左右に振ってそのまま傍へ歩いた。
「ゲールがやっと来たぜ」
 話しながらキャットがベッドへ視線を向けると、白いシーツに包まったドナが微笑みと共に手を振ってくる。キャットは肩をすくめ、唇の片端を大袈裟に上げるだけの笑みで応えた。
 レダーナは下着を被って白いシャツを取り、それを羽織りながら無言で窓際へ向かった。窓の脇からカーテンをわずかにずらし、外を見下ろして窺う。馬に跨ったゲールの姿が、窓の向こうに少し遠く映る。
「確かにゲール・ブレナンだな」
 レダーナはしばらく観察するような厳しい眼差しで見、そして呟いた。
「どういう意味だ?」
 窓の反対側に立つキャットが尋ねる。レダーナはシャツのボタンを留めながら左目を細める。
「自分の目で一万ドルの確認をしたかっただけだ」
 答えてからシャツの裾をズボンに押し込み、ベッドの傍へ戻る。ドナが黒のベストを差し出し、それを受け取って着る。
「本当にやるのか」
 壁際に立ったまま、キャットが腰の自分の銃にちらりと視線を落として、眉間に皺を刻む。
「上手くやる自信がないのか?」
 ベストのボタンを留め、レダーナはにやりと嫌味に笑う。
「まさか」
 キャットは不貞腐れたように舌を鳴らしてから、扉へ移動する。
「キャット様をバカにすんのも大概にしろよな」
 ドアノブに手をかけ振り向いて、鼻筋に皺を寄せ、怒りながらふざけるようにレダーナを指差す。
「頼りにしてるさ」
 レダーナが唇を薄くすると、キャットは歯を剥いてみせてから部屋を飛び出していった。
 階段を駆け下りる靴音と拍車の音が遠ざかってゆく。
「あなたはどうするの?」
 シーツで口元を隠しながら笑ってキャットを見送ったドナが、ベストを何度か下に引っ張り整えているレダーナに問う。
「私は私でやることがある」
 ベッドのヘッドボードに預けていたガンベルトを腰に巻き、レダーナは答える。紫銀のコルトを一度抜き、シリンダーをずらして確認し、すぐにホルスターに戻す。それから近くの椅子に片足ずつ乗せて、ブーツの踵にそれぞれ拍車を留める。つま先を数度床に打ち付けたあと、椅子に引っ掛けていた帽子を手に取る。ドナは寝そべったままその仕草を見つめる。
「気をつけてね、レダーナ」
 レダーナは帽子を被りながらドナに視線を流しわずかに微笑んで、そしてキャットに遅れて部屋を出る。
 歩みのペースではあるが心持ち速い、拍車の金属音混じりの靴音が遠く下方へと移動してゆく。
 ドナはその音を聞きながら、ベッドの上に置き去りにされたレダーナのマントを引き寄せた。黒のそれを抱きしめて包まるように被って、鼻から息を抜きながら甘く楽しげに笑う。



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夕陽の決斗/黄金ガンマン
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