【Chapter 7】

 苦り切った顔のキャットが外へ出ると、ちょうど通りを野良犬が走り抜けて行った。それを少し目で追ってから銀行を振り返って立つ。いくらもしないうちに、レダーナも姿を見せた。
「これ以上なんの用だって?」
 道まで下りてくるレダーナに、キャットがもはや呆れ調子で尋ねる。
「私ひとりで一万は出さんよ」
 マントの裾を揺らしキャットの横へ来ると、銀行を振り向き仰ぎながらレダーナが言った。
「どういうことだ?」
「私が今四千ドル持っている。残り、私が三千、お前が三千だ」
 キャットを見下ろし、肩の鞍袋を叩く。それを聞いたキャットの目が大きく開く。
 レダーナが構わずゆっくりと歩き出したので、キャットも慌てて隣に追いついた。自分の右側に並ばれたレダーナは、緩やかにキャットの前を横切って彼女を左側に置く。
「三千? 出せっこない! あたしにそんなカネがあると思うか?」
「稼げばいい」
 咥えた葉巻を上下に揺らし、レダーナは抑揚なく答える。キャットは大きくぎこちなく首を左右に振る。
「たった四日で……三千ドル?」
 唖然とするキャット。含むような笑い声を喉から漏らすレダーナ。
「銀行でも襲えば早いが、まぁそうもいくまい」
 背の高いレダーナは悠然と歩いているが、小柄なキャットはいくらか早足だ。
「あんたは銀行も襲うのか」
 テンポの違う拍車の音の中、皮肉混じりの疑問を向ける。
「まさか」
 葉巻を一度唇から離し、口内の煙を残さず吐き出し切って、否定だけを短く返す。
「三千ドルだなんて……」
 キャットは不機嫌さを滲ませたまま顔を背け、自分の進む先の地面を睨みながら呟いた。レダーナはおもむろに葉巻を咥え直す。
「私についてくるなら、稼ぎ方を教えてやる」
 その言葉に、キャットの大きなヘーゼルの瞳がぎょろりと動いて険しくレダーナを見た。レダーナもその視線を受け流しながら、横目にキャットを見返した。
「面倒は見ん。教えてやるだけだ」
「同じだろ!」
 またもキャットが感情を沸騰させかけ、レダーナは立ち止まって彼女に向き直った。出端を折られて、キャットは少し戸惑いを見せる。
「プライドの捨てどころを見誤ると、カネは稼げない」
 葉巻の煙に交じるレダーナの掠れ声はあくまでも静かだ。キャットはわずかに俯き、腰の辺りで強く拳を握る。
「我慢のできない屈辱には復讐しろ。我慢ができるなら気にかけるな」
 三本の指で葉巻を持ち、火のついた先端を一度眺めてから、レダーナはキャットを見下ろして続けた。
 キャットは拳を胸の前にやり、しばらくそれを震わせて、そしてゆっくり解く。開いた掌で首を派手に擦り、短く強い息をひとつ吐いた。
「どうすりゃ三千稼げるって?」
 見上げるキャットに、レダーナは口元で薄く微笑む。葉巻をまた咥えようとしたが、思い直したように再び先端を眺める。
「葉巻は途中で飽きるな」
 呟くように言うと、手首を返して、葉巻の吸い口をキャットの口にねじ込んだ。キャットは一瞬呆気にとられたあと、あからさまに顔をしかめたが、咥えさせられた葉巻を見下ろしただけで、含んだ煙を鼻から抜いた。
「出掛ける。馬を用意して町の外だ」
 レダーナの言葉に、キャットもゆっくり二、三度頷く。



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夕陽の決斗/黄金ガンマン
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