『マカロニ・ウエスタン マニアックス 特命篇』解説及びスタッフ・キャスト詳細


『荒野のお尋ね者』 (Togetter「蔵臼金助氏による『荒野のお尋ね者』解説及びスタッフ・キャスト詳細」)

『荒野のお尋ね者』(→Amazon
SETTE WINCHESTER PER UN MASSACRO
(1966年伊映画/1967年公開作品/98分)
 タランティーノが最も敬愛する、エンツィオ・G・カステラッリ監督デビュー作。“皆殺しのための7挺のウインチェスター”が無法の荒野に炸裂!960年代後半。爆発的なブームとなったイタリア製西部劇は勢いに乗って量産され、世界中で作品が公開されることになる。イタリア映画界の巨匠から中堅監督、新人監督までが映画制作に駆り出され、オリジナルの西部劇を創造し、次々に傑作、怪作、珍作を生み出していった。
 その絶頂期にデビューした監督の一人が、当時28歳のエンツィオ・G・カステラッリである。残虐非道、情無用、一匹狼が主人公のマカロニウエスタンにおいて、彼はプロフェッショナル同士のチームワークによる痛快なアクションを通じ、軽快な登場人物たちによる、男の美学を独特のタッチで描き出した。クエンティン・タランティーノ監督は「最も敬愛する監督」としてカステラッリの名を掲げ、カステラッリの代表作である『地獄のバスターズ』にインスパイアされて2009年に『イングロリアス・バスターズ』を制作、カステラッリ自身をゲスト出演させている。


【作品解説】
 南北戦争が終結。南軍の敗北を認めないブレイク大佐(ガイ・マディソン)はメキシコに逃れ、群盗と化していた。殺戮と略奪に明け暮れる彼らはお尋ね者となりながらも南軍復興のための20万ドルの軍資金を探し求める。その隠し場所を知るスチュアート(エド・バーンズ)は彼らに近づき仲間に加わった。メキシコ政府軍、アメリカ陸軍の厳重な警戒網を突破、軍資金に近づいた彼らだったが、そこに謎の美女マヌエラ(ルイーズ・バレット)が現れ、彼らに向かって発砲し始める。南部の娘だった彼女は、ブレイク一味を北軍と間違えて狙撃したと主張するのだが…。
 お尋ね者と化した元南軍将校ブレイクに、『フェザー河の襲撃』など多くのハリウッド西部劇に出演していたガイ・マディソン(『五匹の用心棒』『ワイアット・アープ』)が扮し、彼らに近づく謎のガンマンと謎の美女を、TVシリーズ『サンセット77』のクーキー役で一世を風靡したエド・バーンズ(『黄金無頼』『黄金の三悪人』)、イタリアン・ホラーの傑作『惨殺の古城』でデビューしたルイーズ・バレット(『必殺の二挺拳銃』『殺して祈れ』)が演じた。出演は他に、カステラッリの兄であるエンニオ・ジローラミ(『カリビアの夜』『黄金の棺』)、狡賢い顔つきが特徴でマカロニではよく悪役を演じるリック・ボイド(『血斗のジャンゴ』『黄金の眼』)など。
 本作で鮮烈な監督デビューを飾ったエンツィオ・G・カステラッリ(『七人の特命隊』『死神の骨をしゃぶれ』『空爆大作戦』)は、この後マカロニ・ウエスタンばかりでなく、戦争映画、犯罪映画など、あらゆるアクション映画において手腕を発揮、職人監督として現在も活躍中である。撮影は『無宿のプロガンマン』のアルド・ピネリ。脚本をカステラッリ監督、本作以降、監督と度々組むことになるティト・カルピ(『荒野の無頼漢』『テンタクルズ』)、イタリア映画界のベテラン監督であるカステラッリの父親マリノ・ジローラミ(『十字架の用心棒』『ああ新婚』)の3人が執筆した。音楽はマカロニに雄大なテーマをつけさせたら天下一品の、フランチェスコ・デ・マージ(『地獄から来たプロガンマン』『情無用のならず者』『南から来た用心棒』)が作曲。躍動感溢れるテーマ曲をラオールが熱唱している。


【スタッフ】
製作/監督/脚本:エンツィオ・G・カステラッリ(Enzo G. Castellari)
 1938年7月29日、イタリア、ローマ生まれ。本名はエンツォ・ジローラミ(Enzo Girolami)。E・G・ローランド(E.G. Rowland)の変名で監督した本作は、演出デビュー作にあたる。40を超える監督作はマカロニ・ウエスタン、ジャッロ、戦争映画、SFアクション、犯罪アクション、コメディとジャンルを問わず、'60年代後半から現在に至る迄、イタリア娯楽映画界の職人監督として活躍。クエンティン・タランティーノは彼を「最も尊敬すべき、最も好きな監督」として賞賛している。また、俳優としても21作品の出演経験があり、カステラッリの代表作である『地獄のバスターズ』にオマージュを捧げたタランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』では、カメオ出演もしている。陰鬱なトーンの多いイタリア製西部劇の中にあって、彼の演出した西部劇はからっとした作風の男気溢れる快作が多く、米国でも人気が高い。父親は'50〜'80年代にかけて活躍したベテラン監督マリノ・ジローラミ、兄はフェリーニの『カリビアの夜』にも出演した俳優のエンニオ・ジローラミ、叔父は『皆殺し無頼』『二匹の流れ星』等の演出でマカロニファンに知られるロモロ・グェッリエリと、イタリアでは映画一家として知られている。
[filmography]
 1966年 『荒野のお尋ね者』(本作)、1967年 『黄金の三悪人』、1968年 『ジョニー・ハムレット』『七人の特命隊』、1969年 『空爆大作戦』、1970年 『冷酷なる瞳』、1973年 『死神の骨をしゃぶれ』、1974年 『復讐の銃弾』、1976年 『地獄のバスターズ』『オニオン流れ者』、1977年 『ローマ麻薬ルート大追跡』『ビッグ・バイオレンス』『ケオマ・ザ・リベンジャー』、1979年 『シャーク・ハンター』、1980年 『ジョーズ・リターンズ』『コブラ/フランコ・ネロ 殺しの罠』、1982年 『ブロンクス・ウォリアーズ/1990年の戦士』、1983年 『砂漠の戦士/黒いライオン』、1985年 『ライト・ブラスト』、1987年 『炎の戦士ストライカー』、1989年 『刑事ハマー/カリブの熱い風』、1997年 『デザート・オブ・ファイアー』

脚本:ティト・カルピ(Tito Carpi)
 生年月日不詳。娯楽作品を得意とするイタリア映画界のベテラン脚本家。レオン・クリモフスキーが監督した『無宿のプロガンマン』(66)でカステラッリと組んで以降(カステラッリはノンクレジットながらクリモフスキーと共同監督)、『七人の特命隊』『空爆大作戦』とよくコンビを組むようになり、カステラッリ単独演出初作品となる本作でも共同で脚本を執筆した。
[filmography]
 1966年 『無宿のプロガンマン』『荒野のお尋ね者』(本作)『復讐のジャンゴ・岩山の決闘』、1967年 『黄金の三悪人』、1968年 『ジョニー・ハムレット』『七人の特命隊』、1969年 『空爆大作戦』、1970年 『冷酷なる瞳』『サルタナがやって来る〜虐殺の一匹狼〜』『荒野の無頼漢』、1972年 『ガンマン牧師』、1973年 『死神の骨をしゃぶれ』、1975年 『青い経験』、1977年 『テンタクルズ』、1979年 『シャーク・ハンター』、1980年 『コブラ/フランコ・ネロ 殺しの罠』、1983年 『ブロンクスからの脱出』、1984年 『狼どもの戦場』、1985年 『ライト・ブラスト』、1987年 『炎の戦士ストライカー』、1989年 『エイリアン・フロム・ディープ』

脚本:マリノ・ジローラミ(Marino Girolami)
 1914年2月1日、イタリア、ローマ生まれ。1994年2月20日死去。77本の監督作、43本の脚本担当作、17本の映画のプロデュース、他にも編集、プロダクションマネージャー、役者などで、戦後のイタリア娯楽映画界を支えた。エンツォ・G・カステラッリ監督の父親でもある。『二匹の流れ星』のロモロ・グェッリエリ監督は、17歳年下の実弟。

撮影:アルド・ピネリ(Aldo Pinelli)
 生年月日不詳。1965年にピエル・パオロ・パゾリーニが監督したドキュメンタリー、『Sopralluoghi in Palestina per il vangelo secondo Matteo』(『『奇跡の丘』のためのパレスチナ・ロケハン』)の撮影を、『道』『河の女』『甘い生活』の名カメラマン、オテッロ・マルテッリと共に担当。翌年に『無宿のプロガンマン』、翌々年に本作の撮影を担当してからは、活動はしていない。

音楽:フランチェスコ・デ・マージ(Francesco De Masi)
 1930年1月11日、イタリア、ローマ生まれ。2005年11月6日、75歳で亡くなる迄の間に、160を超える映画作品に音楽をつけた、偉大なるイタリア人コンポーザー。イタリア製西部劇のみならず、史劇、警察もの、ジャッロ、戦争映画等など、アクション映画を中心に精力的にスコアを量産した。勇壮なメロディやサスペンスフルな劇伴音楽、叙情豊かな愛のテーマなど、作風は変化に富み、ファンも多い。サン・ピエトロ音楽院でオーケストラの指揮を学んだ後、イタリア放送局主催の若い指揮者に贈られる賞を受賞して認められ、イタリア映画音楽会の重鎮アンジェロ・フランチェスコ・ラヴァニーノに師事した後、スクリーン・ミュージックの世界に入る。1959年にフォルコ・クィリチが監督した『南十字星の下』で、映画音楽作曲家としてデビュー。間もなく空前のブームとなったマカロニ・ウエスタン、スパイ・アクションのスコアを手がけて、映画音楽作曲家としてのスタイルを確立した。『南から来た用心棒』『地獄から来たプロガンマン』『七人の特命隊』などの主題曲でマカロニ・ファンの心を掴み、本作でラオールが熱唱する主題歌“SEVEN MEN”は、今でもファンに愛され続けている。
[filmography]
 1959年 『南十字星の下』、1962年 『チコと鮫』、1963年 『鉄腕マチステ』、1964年 『皆殺し24時間』、1965年 『スパルタカスの復讐』『革命時カランチョ危機連発』、1966年 『レーザーライフル』『南から来た用心棒』『地獄から来たプロガンマン』『荒野のプロ・ファイター』『荒野の棺桶』『荒野のお尋ね者』(本作)、1967年 『情無用のならず者』『女王陛下の大作戦』『黄金の三悪人』、1968年 『ジョニー・ハムレット』『七人の特命隊』『国際泥棒組織』、1969年 『ローマのしのび逢い』『空爆大作戦』、1972年 『シシリアン・マフィア』、1973年 『尼僧連続殺人』『エロスの詩』、1976年 『地獄のバスターズ』、1977年 『容赦なき追撃』、1978年 『悪魔の死体蘇生人』、1982年 『サバイバル・ジャングル/失われた黄金』、1983年 『サンダー』『ブロンクスからの脱出』『ラッシュ/地獄からの脱出』『テキサスSWAT』、1984年 『マンハンター/暴虐の銃弾』、1985年 『サイコ・キラー』、1986年 『アフガニスタン・地獄の日々』、1987年 『怒りの戦士/グレート・トア』、1988年 『怒りのサンダー/最後の決戦』

【キャスト】
スチュアート:エド・バーンズ(Edd Byrnes)
 1933年7月30日、アメリカ合衆国、ニューヨーク州ニューヨーク生まれ。本名エドワード・バーン・ブライテンバーガー(Edward Byrne Breitenberger )。TVシリーズ『サンセット77』でビートニクの隠語を話す駐車係、クーキー役で脚光を浴びる。コニー・スティーヴンスと組んだ『クーキー、クーキー』(クーキー役をスピンオフしたTVシリーズの探偵もの)でアイドルとなり、人気が沸騰。その主題歌を始め、数枚のシングルをリリースする。役者に転向後、麻薬とアルコールに溺れて、一時期リタイア。心機一転、ヨーロッパに渡って、3本のイタリア製西部劇に出演した。本作はその内の1本にあたる。その後米国に帰国して、TV番組やTVムービーに出演するものの、薬物中毒から完全に立ち直ったのは'80年代に入ってからである。
[filmography]
 1958〜1961年 『サンセット77』(TVシリーズ)、 1958年 『特攻決死隊』、1959年 『イエローストン砦』『潜望鏡を上げろ』、1964年 『侵略戦線』、1965年 『踊る太陽』、1966年 『荒野のお尋ね者』(本作)、1967年 『黄金無頼』『黄金の三悪人』、1969年 『沈黙のガンマン』(TVムービー)、1972年 『黒いジャガー/殺し屋は俺が葬る』(TVムービー)、1973年 『ブロンド美女連続殺人』(未/ビデオ)、1978年 『グリース』、1985年 『彩艶のイマージュ』(未/ビデオ)、1987年 『マンキラーズ/ブロンド虐殺コマンドー』(未/ビデオ)、1989年 『ガールスカウト・ビバリーヒルズ版』

トーマス・ブレイク大佐:ガイ・マディソン(Guy Madison)
 1922年1月19日、アメリカ、カリフォルニア州生まれ。1996年2月6日死去。ハリウッドの典型的な二名目スター、TV画面のヒーローとして、米国のベビー・ブーム世代に人気があった。電信会社のケーブル敷設要員として勤務後、沿岸警備隊勤務を経て、休暇中にハリウッドを訪問した際、デヴィッド・O・セルズニックに見出され、1944年、『Since You Went Away 』でスクリーン・デビューする。1950年代は無数のB級西部劇に出演し、その後、TVシリーズに活躍の場を移す。まだ“マカロニ・ウエスタン”がブームになる前に欧州に渡り、黎明期の欧州製ウエスタンに出演。イタリア製西部劇がブームになると、本作を始め、多くの作品で主役を張ったが、日本では未公開に終わった作品も多い。主役、敵役を問わず、落ち着いたリーダー格のガンマンを演じることが多い。'70年代には米国に戻ったが、身体の不調に悩まされ、幾つかの作品にカメオ出演した後、'96年に肺気腫で亡くなった。
[filmography]
 1946年 『時の終りまで』、1947年 『虐殺の河』、1951年 『南部の勇者』『南部に轟く太鼓』『毒矢の秘密』『姿なき決斗』、1952年 『洞窟の決闘』『西部の侠児』『怒りの拳銃』、1953年 『フェザー河の襲撃』、1954年 『幌馬車強盗団』、1955年 『シャロン砦』、1956年 『原始怪獣ドラゴドン』『宇宙への挑戦』、1958年 『西部を股にかける女』、1959年 『スカイジャック』、1960年 『ローマの奴隷』 、1963年 『騎兵隊最後の砦』、1965年 『ワイアット・アープ』、1966年 『五匹の用心棒』『荒野のお尋ね者』(本作)、1968年 『地獄のノルマンディ』1969年 『ヘル・コマンドー7』、1972年 『ガンマン牧師』、1988年 『新・赤い河』<TVM>

マヌエラ:ルイーズ・バレット(Louise Barrett)
 生年月日不詳。本名ルイーザ・バラート(Luisa Baratto)。日本では劇場未公開だが、ホラー・ファンに人気が高い1966年制作のイタリア製恐怖映画、『惨殺の古城』でデビュー。『対決!ウインチェスター銃』のミッキー・ハージティに拷問されるヒロイン、エディス役で印象を残す。続く『Devilman Story 』で既にガイ・マディスンと共演。その後幾つかのマカロニに出演した後、1969年の『Colpo di stato』を最期にスクリーンから姿を消す。
[filmography]
 1966年 『惨殺の古城』『荒野のお尋ね者』(本作)、 1967年 『殺して祈れ』『キラー・キッド』、1968年 『必殺の二挺拳銃』

ゴンザレス:トマス・ムーア(エンニオ・ジローラミ)(Thomas Moore(Ennio Girolami))
 1935年1月14日、イタリア、ローマ生まれ。エンツォ・G・カステラッリの兄でもあるイタリア人俳優。デビューは古く、1950年代からイタリア映画界で活躍。フェリーニの『カリビアの夜』などの名作に出演したり、ホラー、数多くのコメディなど、芸域は広い。本作では本名のエンニオ・ジローラミではなく、変名のトマス・ムーアで出演。
[filmography]
 1957年 『カリビアの夜』、1966年 『無宿のプロガンマン』、1966年 『荒野のお尋ね者』(本作)、1967年 『黄金の棺』、 1968年 『十字架の用心棒』『ジョニー・ハムレット』

(蔵臼金助)

『殺して祈れ』 (Togetter「蔵臼金助氏による『殺して祈れ』キャスト解説」「続・蔵臼金助氏による『殺して祈れ』キャスト解説」)

『殺して祈れ』(→Amazon
REQUIESCANT
(1967年イタリア・西ドイツ合作映画/1968年劇場公開作品/107分)

 砂塵に響くは死を呼ぶ祈りか、棺桶ひきずる音か…。社会派カルロ・リッツァーニ監督が、『群盗荒野を裂く』のルー・カステルと奇才パゾリーニを招いて作った、サイケデリック・ウエスタン!ネオ・レアリスモの時代からイタリア映画界に関わり、『山いぬ』『目をさまして殺せ』など硬派の作品で知られる社会派監督カルロ・リッツァーニが撮った、2本のマカロニ・ウエスタンのうちの1本(もう1作品は、『帰って来たガンマン』)。
 主役には『群盗荒野を裂く』のクールなアメリカ人殺し屋役で注目を浴びたルー・カステルを招き、エキセントリックな悪役を『皆殺し無頼』『リンゴ・キッド』のマーク・ダモンが怪演した。そして、メキシコ人革命家の役に『アポロンの地獄』『テオレマ』『ソドムの市』の奇才ピエル・パオロ・パゾリーニ監督が扮し、その重厚な演技は公開当時評判になった。このパゾリーニ監督の参加により、本作はよくあるマカロニ・ウエスタンの枠を超えて、奇妙な味わいを持つ西部劇として完成する。


【作品解説】
 土地をめぐってアメリカ人とメキシコ人が争うミズーリ州、サン・アントニオ。長年の争いに終止符を打つべく協定が結ばれることになったが、それは仕組まれた罠だった。悪党ファーガソン(マーク・ダモン)の姦計により、メキシコ人たちはガトリング銃で皆殺しにされる。ただ一人生き残った少年レキスカントはアメリカ人牧師に拾われ、立派な若者(ルー・カステル)に成長した。生まれながらの射撃の才能に秀でた彼は、次々に悪党共を撃ち倒すと、聖書を片手に祈りを捧げるガンマンとなる。そして彼は、同胞を皆殺しにした復讐の相手を探し出すため、旅立つのだった…。
 主人公レキスカントにコロンビア出身の異色俳優ルー・カステル(『カサンドラ・クロス』『イルマ・ヴェップ』)が扮し、多くのマカロニ・ウエスタンで主人公を演じたマーク・ダモンが敵役を憎々しげに演じた。パゾリーニの映画出演も話題を呼んだが、ファーガソンの用心棒役と革命家の付き人役に、パゾリーニ映画の常連俳優フランコ・チッティ(『七人の特命隊』『豚小屋』)、ニネット・ダヴォリ(『テオレマ』『エロスの詩』)が扮しているのも注目である。出演は他に、バーバラ・フレイ(『この墓を血で洗え!』『二十歳の恋』)、ロザンナ・クリスマン(『エル・グレコ』)、ルイーズ・バレット(『キラー・キッド』)など。
 首にロープをかけて互いに椅子に立ち、椅子の脚を銃で撃って勝敗を競う決闘、拷問の様子を楽しげにスケッチするサディストの悪役、人形に話しかけ愛でるサイコな用心棒など、自らも楽しんで撮ったかの様なビザールさ満点の作品に仕立て上げたのは、骨太の演出を得意とするカルロ・リッツァーニ。脚本を『J&S/さすらいの逃亡者』『ミネソタ無頼』のアドリアーノ・ボルツォーニ、『地獄の戦場コマンドス』『炎のいけにえ』のアルマンド・クリスピーノ、『シシリアン・マフィア』のルチオ・バティストラーダが担当し、この後“サバタ”シリーズや『ジャンゴ/灼熱の戦場』を撮ることになるサンドロ・マンコーリがカメラを担当、音楽は『世界残酷物語』『怒りの荒野』のベテラン、リズ・オルトラーニがいかにもイタリア製西部劇と言ったスコアを作曲している。

【スタッフ】
監督:カルロ・リッツァーニ(Carlo Lizzani)
 1922年3月4日、イタリア、ローマ生まれ。イタリア映画を代表する巨匠。ジャーナリスト出身の経験を活かし、記録映画界で手腕を振るう。1950年前後にはイタリアン・ネオレアリスモの傑作を次々に送り出し、戦後イタリア映画界の復興に大きく寄与した。『にがい米』(48)で、1950年のアカデミー賞原案賞にノミネート。『ドイツ零年』(48)では、ロカルノ国際映画祭ベスト・オリジナル脚本賞を受賞。他にも数々の映画祭で20近い賞を受賞、もしくはノミネートされている。'60年代半ばからは、気骨のあるアクション映画や社会性のあるサスペンス映画などを手がけるようになった。
[filmography]
 1953年 『街の恋』、1958年 『黄色い大地』、1959年 『恋に向って突っ走れ』『白い道』、1960年 『汚れた英雄』、1965年 『秘密大戦争』、1966年 『目をさまして殺せ』『帰って来たガンマン』、1967年 『殺して祈れ』(本作)、1968年 『ミラノの銀行強盗』、1969年 『山いぬ』、1973年 『小さな刑事』、1974年 『マンハッタン皆殺し作戦』『ブラック・シャツ/独裁者ムッソリーニを狙え!』、1977年 『ホテル』、1988年 『ゴルバチョフへの手紙』

脚本:アドリアーノ・ボルツォーニ(Adriano Bolzoni)
 1919年4月14日イタリア、クレモナ生まれ。イタリア映画を中心に60を超える映画の脚本を執筆したシナリオライター。1950年代から映画界に入り、マカロニウエスタン全盛期に西部劇の脚本を量産した。'80年代に入ってからはTVシリーズに活動の場を移し、ドキュメンタリー2本を含む4本の監督作もある。執筆したマカロニ・ウエスタンの脚本は、『豹/ジャガー』を始め『J&S/さすらいの逃亡者』『ミネソタ無頼』など、秀作が多い。
[filmography]
 1962年 『闘将スパルタカス』、1964年 『ミネソタ無頼』、1966年 『リンゴ・キッド』、1967年 『復讐の用心棒』『殺して祈れ』(本作)『虐殺砦の群盗』、1968年 『豹/ジャガー』、1972年 『J&S/さすらいの逃亡者』、1973年 『続シンジケート』、1974年 『ダーティ・チェイサー/凶悪犯死の大逃走500キロ』『恐るべき少女誘拐事件』、1975年 『刑事マルク』<TV>、1978年 『シルバー・サドル/新・復讐の用心棒』、1979年 『ヒューマノイド/宇宙帝国の陰謀』

脚本:アルマンド・クリスピーノ(Armando Crispino)
 1924年10月18日、イタリア、ビエラ生まれ。2003年10月6日死去。イタリア映画ファンからは、『炎のいけにえ』『地獄の戦場コマンドス』の監督として知られている。ピエトロ・ジェルミやルイジ・コメンティーニなど、イタリアが誇る名監督に助監督として師事した後、映画監督として独立。平行して、シナリオも執筆した。
[filmography]
 1967年 『殺して祈れ』(本作)、1971年 『タフガイ・殺人ボクサー』

脚本:ルチオ・バティストラーダ(Lucio Battistrada)
 生年月日不詳。1950年代から1980年代のイタリア映画界で活躍した脚本家。30を超える執筆作品がある。'70年代からはTVシリーズを多く手がけた。
[filmography]
 1963年 『ああ離婚』、1965年 『大犯罪者の顔』、1967年 『殺して祈れ』(本作)、1968年 『地獄の戦場コマンドス』、1972年 『シシリアン・マフィア』、1974年 『炎のいけにえ』、1983年 『黄色い悪夢』

撮影:サンドロ・マンコーリ(Sandro Mancori)
 生年月日不詳。“サバタ”シリーズを始め、マカロニ・ウエスタンやイタリアの娯楽映画を何作も手がけた名カメラマン。広角レンズを多用し、遠近感を強調した劇画的な画面の構築に定評がある。ミケーレ・ルーポ監督の未公開アドベンチャー『Sette contro tutti』でデビュー、本作は3本目の撮影担当作となる。
[filmography]
 1967年 『殺して祈れ』(本作)『キラー・キッド』、1968年 『必殺の二挺拳銃』『戦場のガンマン』、1970年 『西部悪人伝』、1971年 『大西部無頼列伝』、1972年 『西部決闘史』、1974年 『小さな唇』、1977年 『雪男イエティ』、1978年 『恥辱の飼育』『サファリ・ラリー』、1979年 『SFスタークラッシュ/銀河パラダイスへの冒険』、1983年 『トルネード』『ザ・ゴールデン・コブラ』『アドベンチャー・アーク/アポロンの秘宝』、1987年 『炎の戦士ストライカー』『ジャンゴ/灼熱の戦場』

音楽:リズ・オルトラーニ(Riz Ortolani)
 1931年、イタリア、ペザーロ生まれ。イタリアの映画音楽作曲家ではニーノ・ロータ、エンニオ・モリコーネらと並び世界的に知名度の高い作家である。それはひとえに1962年に発表された“モンド映画”の元祖、『世界残酷物語』の主題曲「モア」のメロディの美しさによるところが大きい。翌年、'63年の時点で既にビリー・ハイデン、リチャード・ハリスン出演のイタリア製西部劇、『墓標には墓標を』のスコアを書いているので、マカロニ作曲家としては最も古い部類に入るのかもしれない。'63年と'70年には、アカデミー歌曲賞に『世界残酷物語』と『MADRON』(未)がノミネートされ、'65年には『黄色いロールス・ロイス』で、第23回ゴールデン・グローブ歌曲賞を受賞した。多作でも知られ、2010年現在も現役で活躍中。作曲を担当した作品は既に200を超えている。
[filmography]
 1962年 『ローマの崩壊』『地中海の休日』『地球の皮を剥ぐ』『世界女族物語』『世界残酷物語』、1963年 『獅子王の逆襲』『騎兵隊最後の砦』『顔のない殺人鬼』『追い越し野郎』『墓標には墓標を』、1964年 『幽霊屋敷の蛇淫』『濡れた本能』『第七の暁』『黄色いロールス・ロイス』、1965年 『栄光の野郎ども』、1966年 『ヤコペッティの さらばアフリカ』『ブルドッグ作戦』『虎の谷』『海底決戦隊』、1967年 『殺して祈れ』(本作)『風の無法者』『女と女と女たち』 『怒りの荒野』『アフリカ最後の残酷』、1968年 『ミラノの銀行強盗』『花ひらく貞操帯』『想い出よ、今晩は!』『大泥棒』『アンツィオ大作戦』、1969年 『ギャング・プロフェッショナル4+1』『栄光の戦場』、1970年 『マッケンジー脱出作戦』『ジュールの恋人』『昨日にさよなら』、971年 『ヤコペッティの残酷大陸』『さらば荒野』『警視の告白』、1972年 『マッキラー』『ブラザー・サン シスター・ムーン』『バラキ』『ダーティ・セブン/要塞攻防戦』(未・TV)『栄光の北アフリカ戦線』(未・TV)、1973年 『続シンジケート』『ジェーン・バーキン in ヴェルヴェットの森』、1974年 『ヤコペッティの大残酷』『残酷人喰大陸』『華麗なる復讐』、1976年 『スキャンダル』、1977年 『サハラクロス』、1978年 『戦争と友情』、1979年 『グレート・ドライバー』、1980年 『真夜中の狂気』、1981年 『欲望の中の女』『食人族』、1983年 『バレンチナ物語』『トリエステから来た女』『追憶の旅』 『砂漠の戦士/黒いライオン』、1984年 『モーツァルト/青春の日々』、1985年 『ミランダ/悪魔の香り』、1986年 『若妻の匂い』、1987年 『ラブ&パッション/情事の虜たち』『地獄のミッション』『インクアイリー/審問』、1988年 『キラー・クロコダイル』、1989年 『いつか見た風景』、1990年 『キラー・クロコダイル/怒りの逆襲』、1992年 『地獄の女スナイパー』、1998年 『恋は結婚式の後で…』、2001年 『ナイト・オブ・ゴッド』 、2003年 『クリスマスの雪辱』『心は彼方に』、2005年 『二度目の結婚』、2008年 『ボローニャの夕暮れ』

【キャスト】
レキスカント:ルー・カステル(Lou Castel)
 1943年5月28日、コロンビア、ボゴタ生まれ。マルコ・ベロッキオ監督の問題作、『ポケットの中の握り拳』のアレッサンドロ役での鬼気迫る演技で注目された、ヨーロッパ映画界の異端児。出演作品は120を超え、未だ現役。ヴィム・ヴェンダースやダニエル・シュミットら個性的な欧州の映画作家たちに重用され、2008年には青山真治の短編『Le Petit chaperon rouge』の主役を演じてる。マカロニファンには『群盗荒野を裂く』のアメリカ人青年役で知られる。
[filmography]
 1966年 『群盗荒野を裂く』、1967年 『殺して祈れ』(本作)、1968年 『狂った蜜蜂』、1970年 『聖なるパン助に注意』、1972年 『緋文字』、1976年 『カサンドラ・クロス』、1977年 『アメリカの友人』『ヴィオランタ』、1979年 『レイプ・ショック』、1983年 『サイコ・スリラー/呪われた海辺』、1985年 『彼女は陽光の下で長い時を過ごした』、1986年 『巴里ホテルの人々』、1987年 『風の中の恋人たち』『BAR(バール)に灯ともる頃』、1991年 『イヤー・オブ・ザ・ガン』、1993年 『愛の誕生』、1996年 『イルマ・ヴェップ』、2001年 『なぜ彼女は愛しすぎたのか』

ファーガソン:マーク・ダモン(Mark Damon)
 1933年4月22日、アメリカ合衆国イリノイ州、シカゴ生まれ。マカロニでは『皆殺し無頼』のジョニー・ユーマ、『リンゴ・キッド』のジョニー・オロなど、颯爽とした主役でファンに知られており、本作の様な悪役は珍しい。1961年のゴールデン・グローブ賞では、最優秀新人男優賞をブレット・ハルゼイ(『野獣暁に死す』のモンゴメリー・フォード)と共に受賞、早くから演技派の若手としてハリウッドでは注目されていた。『ヒッチコック劇場』『ハワイアン・アイ』などのTVシリーズに出演する一方、ロジャー・コーマン監督の『アッシャー家の惨劇』に出演し、後の映画製作のノウハウを彼から学んだ。幾つかのハリウッド映画に出演した後、1063年に欧州へ渡り、1970年代半ばまでは、ヨーロッパを中心に無数のイタリア製西部劇、アクション映画、ホラー映画に出演する。1980年代以降は俳優業を引退。映画製作のプロデューサーとして、『U・ボート』『コットンクラブ』『蘭の女』『ヤング・ブラッド』など多くの映画制作に関わった。2004年には『モンスター』の製作者として、“インディペンデント・スピリット・アワード”の最優秀作品賞を受賞している。
[filmography]
 1956年 『肉弾鬼中隊(突撃ヤンキー部隊)』『ならず者部隊』、1960年 『暴走する反抗族』『アッシャー家の惨劇』、1962年 『史上最大の作戦』、1963年 『ヤングレーサー』『野獣になった王様』『ブラック・サバス/恐怖!三つの顔』、1966年 『リンゴ・キッド』『皆殺し無頼』『愛は限りなく』、1967年 『殺して祈れ』(本作)『オーウェルロックの血戦』『白昼の大列車強盗団』、1968年 『荒野の死闘』『アンツィオ大作戦』、1970年 『炎の戦士ロビン・フッド』、1972年 『ゾンパイア』『雪原に燃ゆ』、1973年 『デビルズ・ウェディングナイト』

ドン・ジュアン:ピエル・パオロ・パゾリーニ(Pier Paolo Pasolini)
 1922年3月5日、イタリア、ボローニャ生まれ。1975年11月2日、死去。ボローニャ大学文学部卒業後、詩集を自費出版。文学活動を続けながら、アルベルト・モラヴィアや詩人のアッティリオらと親交を結び、1955年の『河の女』のシナリオ執筆を契機に、映画界に入った。『カビリアの夜』『狂った夜』『汚れなき抱擁』などの脚本家として活躍後、'61年の『アッカトーネ』で監督デビュー。以降、『アポロンの地獄』『テオレマ』『豚小屋』と、次々に問題作を発表し、フェリーニやビスコンティ、アントニオーニらと共に、イタリアを代表する映画作家として、世界中に知られるようになった。『ピエル・パオロ・パゾリーニ/ソドムの市』撮影後、その作品にエキストラで出演していた17歳の少年に撲殺されるという、ショッキングな亡くなり方でこの世を去る。本作を含む2本のカルロ・リッツァーニ監督作品(もう1本は1960年に撮られた『汚れた英雄』)に俳優としての出演経験がある。

プリンシー:バーバラ・フレイ(Barbara Frey)
 1941年11月17日、ドイツ、ベルリン生まれ。本作に出演する迄に、主にドイツで20を超える劇映画への出演があるが、本作出演以降はドイツに戻り、主にTV番組を中心に活躍を続け、現在に至っている。
[filmography]
 1962年 『二十歳の恋』、1964年 『この墓を血で洗え!』、1967年 『殺して祈れ』(本作)、1968年 『レーザーガン奪取作戦』

(蔵臼金助)


『キラー・キッド』 (Togetter「蔵臼金助氏による『キラー・キッド』解説及びスタッフ・キャスト詳細」)

『キラー・キッド』(→Amazon
KILLER KID
(1967年イタリア映画/劇場未公開・TV放映作品/102分)

 劇場未公開ながらTV放映時にその音楽の魅力とテンポの良いストーリー、凄絶なGUNアクションでマカロニファンの心に残る、アンソニー・ステファン主演作品!イーストウッド、ネロ、ジェンマに続くマカロニ・ウエスタン“第四の男”、アンソニー・ステファン。出演本数は多いものの、なかなかこれと言った作品には恵まれなかった。だが、中には徹底した娯楽作、佳作も数多く存在し、特に彼の後期出演作(残念ながら国内においては劇場公開されず、TV放映されたものや、まったく紹介されなかったものも多い)はファンの間でも人気が高い。
 中でも特に評価が高かったのが、本作と1969年に製作された『皆殺しのガンファイター』。両作品共に演出したのは、イタリアン・ネオレアリスモの時代から経験を積み、手堅い作風で定評のあるレオポルド・サヴォーナ(『必殺のプロガンマン』)である。哀愁を帯びたフラメンコ調の主題曲と、アクションシーンで流れる軽快で勇壮なテーマを作曲したのは、モリコーネ、リズ・オルトラーニと並ぶ人気作曲家、ベルト・ピサーノ(『殺し』)。日本でも、渋谷系アーティストや'70年代歌謡界に大きく影響を与えたと言われる。監督と共同で脚本を執筆、本作でプロデュースを担当したのは、『荒野のみな殺し』のセルジオ・ガローネ。彼はその後、『十字架の長い列』等のイタリア製西部劇で監督に転向、'70年代に入ってからは、『ナチ(卍)第三帝国/残酷女収容所』を代表とする“女囚もの”を手がけるようになった。テンポの良いアクションを効果的に見せるカメラワークを、『西部悪人伝』『ジャンゴ/灼熱の戦場』のサンドロ・マンコーリが構築している。

【作品解説】
 投獄されていたモリソン大尉、通称キラー・キッド(アンソニー・ステファン)は、メキシコ革命軍に武器を売りさばく密売組織を壊滅させるため、脱獄を装い、牢屋から抜け出す。密売人のバーンズと革命軍の取引現場で、革命軍のヴィラール(フェルナンド・サンチョ)は、彼らを皆殺しにして武器を奪おうと企む。凄絶な銃撃戦。一部始終を観察していたキラー・キッドは、メキシコ政府軍のラミレス大尉(ケン・ウッド)に捕まるが、護衛を倒して逃走、メキシコの寒村に隠れた。そこで会ったのは、革命軍のリーダー、エル・サントと、彼の美しい姪メルセデス(リズ・バレット)だった。彼らと出会ったことで、キッドは次第に横暴なメキシコ政府軍への怒りを感じるようになっていく…。
 本作でもアンソニー・ステファン(『荒野のプロ・ファイター』『地獄から来たプロガンマン』)は持ち前のアクロバティックなGUNプレイをふんだんに披露し、両手を縛られたまま敵を撃ち倒したり、転がりながらコルトを連射するアクションを連発。残虐な山賊役が多いフェルナンド・サンチョ(『殺し屋がやって来た』『南から来た用心棒』)が、本作では珍しく、男気のある革命軍のヴィラール役を熱演している。紅一点メルセデスに扮するのは『荒野のお尋ね者』以降、マカロニウエスタンの出演作が増えたルイーズ・バレット(『必殺の二挺拳銃』『殺して祈れ』)。悪役ラミレス大尉を伊アクション映画界のベテラン・バイプレイヤー、ケン・ウッド(『七人の特命隊』『リンゴ・キッド』)が憎々しげに演じた。

【スタッフ】
監督/脚本:レオポルド・サヴォーナ(Leopoldo Savona)
 1922年 伊レノーラ生まれ。'50年に『にがい米』(48)のジュゼッペ・デ・サンティスが監督した『オリーヴの下に平和はない』の制作アシスタントとして映画業界に足を踏み入れる。以降、振付師、プロダクションマネージャー、役者、助監督、脚本家等、多彩なスキルを活かし、数々の作品に携わる。映画監督としてのデビューは'54年の『恋愛時代』。師匠ジュゼッペ・デ・サンティスとの共同監督で、マルチェロ・マストロヤンニ主演のコメディタッチの恋愛映画がスタートとなる。'50年代〜'60年代前半は役者と助監督生活が中心、'60年代からは脚本家と監督業に専念し、18本の監督作品を世に遺した。別名、レオ・コールマン(Leo Coleman)。
[filmography]
 1954年 『恋愛時代』(共同監督)、1957年 『人間と狼』(共同監督)、1961年 『蒙古の嵐』、1962年 『戦闘』、1967年 『必殺のプロガンマン』『キラー・キッド』(本作)、1969年 『西から来た男』、1970年 『皆殺しのガンファイター』

製作/脚本:セルジオ・ガローネ(Sergio Garrone)
 1926年、イタリア、ローマ生まれの映画監督、脚本家。ウィリー・S・レーガン(Willy S. Regan)、ウィリー・レーガン(Willy Regant)の別名を持つ。おびただしい数のB級マカロニウエスタン、“ナチ女囚もの”、ホラー作品の脚本を執筆、13本の監督作、4本のプロデュース作品がある。マカロニウエスタン・ファンには、アンソニー・ステファンが出演した『十字架の長い列』、『Django il bastardo』の監督として人気がある。
[filmography](脚本作品)
 1966年 『荒野のみな殺し』、1967年 『キラー・キッド』(本作)、1970年 『シカゴ・アンタッチャブル』

撮影:サンドロ・マンコーリ(Sandro Mancori)
 生年月日不詳。“サバタ”シリーズを始め、マカロニ・ウエスタンやイタリアの娯楽映画を何作も手がけた名カメラマン。広角レンズを多用し、遠近感を強調した劇画的な画面の構築に定評がある。ミケーレ・ルーポ監督の未公開アドベンチャー『Sette contro tutti』でデビュー、本作は『殺して祈れ』に次いで4本目の撮影担当作となる。
[filmography]
 1967年 『殺して祈れ』『キラー・キッド』(本作)、1968年 『必殺の二挺拳銃』『戦場のガンマン』、1970年 『西部悪人伝』、1971年 『大西部無頼列伝』、1972年 『西部決闘史』、1974年 『小さな唇』、1977年 『雪男イエティ』、1978年 『恥辱の飼育』、1979年 『SFスタークラッシュ/銀河パラダイスへの冒険』、1983年 『トルネード』『ザ・ゴールデン・コブラ』『アドベンチャー・アーク/アポロンの秘宝』、1985年 『キリマンジャロの秘宝』、1987年 『炎の戦士ストライカー』『ジャンゴ/灼熱の戦場』、1988年 『怒りの戦士/スーパー・コマンダー』、1989年 『刑事ハマー/カリブの熱い風』

音楽:ベルト・ピサーノ(Berto Pisano)
 生年月日不詳。日本ではあまり知られていなかったが、ラウンジ・ミュージック愛好家によって再評価されつつある、イタリア映画音楽界の大御所。リタ・パヴォーネのバック・ミュージックを演奏したり、イタリアのジャズシーンでは有名な音楽家で、ヘレン・メリルが1961年に発表した傑作アルバム、「ローマのナイトクラブで」にはベーシストとして、ニニ・ロッソやピエロ・ウミリアーニらと共に参加している。
[filmography]
 1967年 『キラー・キッド』(本作)、1968年 『皆殺しの用心棒』、1971年 『殺し』、1974年 『欲情の血族』

【キャスト】
モリソン大尉(キラー・キッド):アンソニー・ステファン(Anthony Steffen)
 1929年7月21日、イタリア、ローマ生まれ。本名、アントニオ・ルイス・デ・テッフェ(Antonio Luiz De Teffe)。イーストウッド、ジェンマ、ネロの“マカロニ御三家”に次ぐ“第四の男”として本邦デビュー。ニヒルなマスクと長身を活かしたアクロバティックなGUNプレイで、マカロニ・ウエスタンの人気俳優となる。父親はブラジルのイタリア大使。1948年にヴィットリオ・デ・シーカが監督したイタリアン・ネオレアリスモの傑作、『自転車泥棒』で、監督のスタジオ・メッセンジャーとして映画界に入る。ちなみに、『自転車泥棒』には、若き日のセルジオ・レオーネも助監督を務め、端役で出演もしている。“サンダルもの”(史劇)の脇役を経て、'65年にはヨーロッパ製西部劇のはしりであるドイツ製西部劇、『夕陽のモヒカン族』で既にウエスタンのヒーローを演じた。その後のマカロニ・ウエスタン・ブームに乗って、“マカロニ御三家”の他の誰よりも多くの西部劇に出演。作品に恵まれず、芳賀書店の「シネアルバム」で特集本が出ることも無かったが、今でもファンには強い人気がある。晩年は引退して、家族とブラジル、リオ・デ・ジャネイロで静かな余生を送っていたが、多くのファンに惜しまれつつ、'04年6月4日に息を引き取った。
[filmography]
 1961年 『ソドムとゴモラ』、1965年 『夕陽のモヒカン族』『荒野の棺桶』『嵐を呼ぶプロ・ファイター』、1966年 『無宿のプロガンマン』『砂塵に血を吐け』『地獄から来たプロガンマン』『荒野のプロ・ファイター』『アリゾナ無宿・レッドリバーの決闘』、1967年 『白昼の大列車強盗団』『キラー・キッド』(本作)1968年 『必殺の二挺拳銃』『荒野の死闘 無情の賞金稼ぎ』、1969年 『十字架の長い列』『追跡者ガリンゴ』、1970年 『皆殺しのガンファイター』、1971年『復讐のガンマン・ジャンゴ』、1972年 『カーバー&パコ〜トゥー・マッチ・ゴールド』『悪魔の性・全裸美女惨殺の謎』、1973年 『皆殺しの詩・ゴッドマザー』、1980年 『女囚SEX集団』、1985年 『非情の島・女囚大脱走』、1989年 『令嬢チャタレイ3/愛人』

ヴィラール:フェルナンド・サンチョ(Fernando Sancho)
 マカロニ・ウエスタンに出てくる山賊のアイコンと言うか、もはや記号的存在となってしまったスペイン人の名脇役。太った腹を突き出し、豪快に笑いながら銃を撃つ山賊役だけで、数十本の作品に出演し、全ての出演作を合わせると230本を超える。元々はコメディアンだったらしい。1916年、スペイン、ザラゴザ生まれ。1990年7月31日、マドリッドに死す。
[filmography]
 1962年 『アラビアのロレンス』、1963年 『墓標には墓標を』、1965年 『ワイアット・アープ』『夕陽の用心棒』『続・荒野の1ドル銀貨』『禿鷹のえさ』『077/連続危機』『地獄のパスポート』『革命児カランチョ危機連発』、1966年 『南から来た用心棒』『復讐のジャンゴ・岩山の決闘』『七匹のプロファイター』『地獄から来たプロガンマン』『さすらいの一匹狼』 『殺し屋がやって来た』『荒野の10万ドル』、1967年 『西部のリトル・リタ〜踊る大銃撃戦〜』『二匹の流れ星』『地獄のガンマン』『キラー・キッド』(本作)、1968年 『復讐のガンマン』、1973年 『エル・ゾンビ II 死霊復活祭』『帰らざる戦場/ナチ占領軍に総反撃せよ』、1977年 『ラスト・トリガー/孤独の殺人者』、1979年 『ミッション・ファントム』『地獄墓地・死霊のうめき』

ラミレス大尉:ケン・ウッド(Ken Wood)
 1935年4月5日、イタリア、アンツィオ生まれ。本名ジョバンニ・チアンフリグリア(Giovanni Cianfriglia)。いかつい顔が特徴の、イタリア映画界の名脇役。スタントマン出身で、1960年代から“サンダルもの”(史劇)に出演し始め、110作品以上のアクション映画、マカロニ・ウエスタン、フィルムノワール、ジャッロなどで脇役を演じた。2000年代に入ってからもTVシリーズや、劇映画のカメオ出演で顔を見ることが出来る。
[filmography]
 1962年 『逆襲!大平原』、1966年 『リンゴ・キッド』『殺しのテクニック』『五匹の用心棒』、1967年 『キラー・キッド』(本作)『拳銃のバラード』、1968年 『必殺の二挺拳銃』『七人の特命隊』『地獄の幌馬車』『三人の無法者』、1971年 『大西部無頼列伝』『復讐のガンマン・ジャンゴ』、1972年 『西部決闘史』『新・さすらいの用心棒』『ガンファイター』、1973年 『ジャン=ポール・ベルモンドの 恐怖に襲われた街』、1977年 『ケオマ・ザ・リベンジャー』『ビッグ・バイオレンス』『ローマ麻薬ルート大追跡』、1991年 『イヤー・オブ・ザ・ガン』

(蔵臼金助)


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