コルト社のパーカッション・リボルバー (Togetter「蔵臼金助氏によるGUN学コルト始」)


 元々はコルト社のリボルバーの歴史を某誌に書く予定でしたが、特集記事の変更でお蔵入りとなり、DVD『アヴェ・マリアのガンマン』発売時にコラムとして掲載されたものです。オリジナルの文面は掲載コラムより若干長く、映画に関しては触れておりません。コルト社のパーカッションリボルバーが相次いでモデルガン化されております。ハートフォードからは、テキサス・パターソン、ウォーカー、ドラグーン、M1860アーミー、CAW社からはM1851ネービー、M1849ポケット、M1860アーミー…購入された方は参考になさって下さい。

『GUN学コルト始』

 日本国内においてイタリア製西部劇がスクリーンから完全に消え去ったのは、1992年1月のことでした。『ジャンゴ 灼熱の戦場』を最後に、マカロニ・ウエスタンの純粋野生種は絶滅してしまったのであります。以降、影響を受けた作品や亜流、交配種である“マカロニもどき”は数々の目撃例がありますが、100%イタリアンメイドの西部劇はレッドデータブックからも外され、死語辞典に加わることとなりました。山根貞男氏によると、映画の黄金時代は'60年代に衰退し、'70年代に崩壊したのだそうです。そして「映画の量産体制の衰退が第一にはテレビの隆盛によることを思うと、深い感慨を覚える」と書かれているのですが、マカロニファンもまた、そのメディアの推移に深い感慨を覚えざるをえません。
 ダブルオーセブンが二度死ぬように、郵便配達が二度ベルを鳴らすように、マカロニ・ブームは二度やって来ました。映画の黄金時代とぴったり重なりますが、イタリア製西部劇のピークは'60年代でした。'70年代に入ると急速に劇場公開作は減り、新作は作られなくなってしまったのです。しかし、代わりにテレビの時代がやって来ました。マカロニは毎週の様に放送され、当時中学生だった私も、その波を頭からダイレクトにかぶりました。マカロニの主題曲がヒット・チャートをにぎわす様なことは無くなりましたが、サウンドトラックLPが相次いで発売されました。ファンにとっては、幸福な時期が15〜20年くらい続いたのです。しかし、今はどうでしょう? 宿敵“正統派西部劇”も含めて、ウエスタンというジャンルは消滅してしまいました。同時代に隆盛を誇っていたスパイ映画、SF、海賊映画は生き残っているのに、西部劇のみが死に絶えてしまったのです。
 でも皆さん、サミュエル・コルトが携わった過去のリボルバーだって、国内外で次々に復刻され、GUNファンを楽しませています。テンポがトロかろうが、テーマがなかろうが、弾着の特殊効果がなされてなかろうが、マカロニ・ウエスタンを愛する人たちは未だ大勢います。日本では既に90タイトル以上のマカロニDVDがリリースされました。未DVD化の傑作も未だ未だ残っています。薄っぺらい映画に満足できない、ディープで濃い人達、“濃厚民族”を自負する方々は期待しましょう。
 この章では、銃器の世界で既に過去の遺物となった、パーカッション・リボルバーを取り上げてみます。
 アクションがまどろっこしく、一発一発慎重に狙って撃つ必要があるので、今風のたたみかけるアクション映画ではお呼びがかかりませんが、独特の魅力を備えています。マカロニ・ブーム以前から、イタリアではパーカッション・ピストル&ライフルのレプリカ制作を行っていました。それなので、ハリウッド製西部劇以上にそのバリエーションが登場します。西部劇に出て来た、コルト社の、M1851ネービー以外のブラック・パウダー・ピストルを、年代順に取り上げてみましょう。


コルト パターソン・リボルバー
【パターソン・リボルバーの誕生】
 1830年。カルカッタ行き貨物船に乗船していたサミュエル・コルト(16歳・船員)は、汽船の操舵輪あるいは外輪船の推進器を見て、回転式弾倉のアイデアをひらめいた…なんてまことしやかな噂があります。が、1831年に製造した試作ピアスンモデルにおいて、彼が回転式拳銃の基本原理を確立させたのは確かな事実であります。新型ピストルの開発資金を得るため、彼は“ドクター・コルト”と名乗り、笑気ガスを使った見世物実験ショーで稼ぎまくりました。怪しいですねえ。すごく怪しい。まるでマカロニに登場するキャラそのものではありませんか。
 パテント取得後、最初の量産リボルバー(回転式拳銃)、パターソンモデルを完成させたのは、アラモの砦でデイビー・クロケットら180名が戦死した1836年のことでした。まだ試行錯誤がデザインに顕れていて、リコイル・シールドとフレームが分割されてたり、トリガー・ガードが無かったりしてますが、紛れもない、これは世界で最初の量産型回転式連発銃。今も世界の多くの国・地域で使用されているリボルバーと、構造的に何ら変わるところはありません。
 個性の強いそのデザインが敬遠されたか、この銃が映画に登場したことは殆どありません。マカロニでは、皆無です。複製モデルのテキサス・パターソンが『マスク・オブ・ゾロ』に、おそらく実銃らしい、ローディング・レバー付きのものが『ジェシー・ジェームズの暗殺』に出てきたくらいでしょう。

【ウォーカー・モデルと二人のサミュエル】
 近接戦でのレボルバーの有効性を知り尽くしていたサミュエル・ハミルトン・ウォーカー大尉のアドバイスにより、M1847ウォーカー・モデルがメキシコ戦争中に誕生しました。耐久性とストッピング・パワーを重視した.44口径の巨大な拳銃が完成、政府からの大量注文により、サミュエル・コルトはコルト社の下地を築きました。ウォーカー大尉は、完成したばかりの二挺のウォーカー・モデルを持ち、再び戦場へ…。偵察行動中にメキシコ軍と遭遇、戦死を遂げます。この戦いで使われたウォーカー・モデルは今も遺族が所有しているそうです。
 この銃も滅多に映画には登場しません。大々的に使われたのは、イーストウッドの『アウトロー』くらいでしょうか。イーストウッドはパーカッション・ピストルが大好きです。『さすらいのカウボーイ』でも、敵側のガンマンの一人が使用。大きく足を拡げて両腕で銃をかまえるポーズが印象的でした。珍しいカートリッジ・コンバージョン・モデルが、『勇気ある追跡』と『ロンサム・ダブ』に登場しています。

【ドラグーン・モデル】
 ウォーカー・モデルの発展軽量型で、同じく口径.44。銃身はウォーカーの9in.から、7.5in.に短縮、重量が軽減されました。年代によって幾つかのバリエーションが存在します。
 パターソンやウォーカー同様、マカロニには登場したことがありません。ハリウッド製西部劇では、『拳銃45』『ロング・ライダーズ』など、たまに登場します。最近では、『セラフィム・フォールズ』に珍しいカートリッジ・コンバージョン・タイプのものが使われました。

【ベビードラグーン】
 ドラグーン・モデルを軽量化、携帯に適した形にダウンサイジングされたポケット・モデルです。シリンダー外周には、駅馬車のホールドアップ・シーンが彫刻されました。口径.31。5連発。銃身長は3〜6in.と数種類取り揃えられ、M1849ポケットに発展します。M1849ポケットと異なる点は、トリガー・ガード後方がスクエア・バックになってる点。
 『血斗のジャンゴ』には大変珍しい、ローディング・レバーの付いた後期型が登場します。ジャン・マリア・ヴォロンテがスパイを処刑する際に用いました。マカロニはもちろん、西部劇に登場すること自体が珍しいモデルです。

【コルトM1860アーミー】
 3rdモデル・ドラグーンの軽量化モデルとして設計された、口径.44の拳銃です。シリンダー後半に段(リベイテッド・シリンダー)がつき、51ネービーと異なる“クリーピング・タイプ”と呼ばれるローディング・レバーが装着されました。流線型のシルエットはさらに洗練され、美しい形状となってます。
 『脱獄の用心棒』に登場しましたが、南北戦争時は北軍の主力拳銃でしたので、考証的にとてもリアルです。レプリカが普及してからは、『アウトロー』『ペイルライダー』を始め、ハリウッド製西部劇にも時々登場するようになりました。サム・ペキンパーの『ダンディー少佐』では、カートリッジ・コンバージョン・モデルが使われています。

【コルトM1861ネービー】
 M1851ネービーと同じ.36口径、M1860アーミーと同じ流線型の銃身を持っています。『ジョニー・ハムレット』でアンドレア・ジョルダーナが父親の形見として使ったのが、全体に美しい彫刻が入り、ニッケルめっきの施されたM1861ネービーでした。
 『虹に立つガンマン』では、フォルコ・ルリ扮する悪役のメキシコ人地主が、クライマックスにニッケル・モデルを撃ちまくっています。

【ピースメーカーの誕生】
 1873年。パーカッション・レボルバーに終止符を打った、コルト・ニューモデル・アーミー・メタリック・カートリッジ・リボルビング・ピストルが誕生しました。後に、コルト シングル・アクション・アーミーと改名され、“ピースメーカー”と呼ばれる様になった、シングルアクション・リボルバーのマスターピースです。
 ハリウッド製西部劇においては正に“ピースメーカー”の名に恥じることなく、正義の味方として活躍したコルトS.A.A.ですが、イタリア製西部劇の中でこの銃は、もっぱら復讐を果たす手段や金を得る道具、一匹狼の唯一の友として、スクリーンの中で光り輝きます。
 何だか正義の味方の時よりも活き活きとして見えるのは、私の気のせいでしょうか?


(蔵臼金助)

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