メアズ・レッグ(ランダル銃)が登場した映画 (Togetter「蔵臼金助氏による『野獣暁に死す』コラム再録ツイートまとめ」後半部)

マカロニDVD特典用に執筆したものです。

『NINE MARE'S LAIGS BEFORE CLIMAX』

 “尼僧が好きだと、修道服も大好き”とイタリアの諺にある様に、マカロニ・ウエスタンを好む私は、サントラCDやDVDばかりでなく、ガンマンの使った銃器や小道具、衣装に至るまでを研究対象としております。ここでは私の知ってるメアズ・レッグを、時系列順に追って解説したいと思います。 では早速、馬脚をあらわしてみましょうか(あ、これだと違う意味になってしまいますな)。

1.『拳銃無宿(TVシリーズ)』(1958〜1960)  若き日のマックィーンが賞金稼ぎに扮した、アメリカのTV番組です。主人公ジョッシュ・ランダルは、銃身・銃床をソウド・オフしたM1892を使用していました。“メアズ・レッグ”の愛称はこの番組から使われ始め、日本では主人公の名を取り、“ランダル銃”と呼ばれるようになります。切り詰められて携帯性を良くしたM1892にはラージ・ループ・レバーが装着され、ハンマーも加工が施されています。起こしやすいよう、指かけ部分が大型になっているのです。ラウンドとヘキサゴンの2種類の銃身、ループ・レバーの形状も数種類存在したようです。

2.『ミネソタ無頼』(1964) フォックスの手下の一人、どう見てもガンマンと言うよりは、イタリアの拳闘士に見える男が、大ざっぱに切ったM1892を専用ホルスターに収めてます。クライマックスでは発砲する間も無く、レバーを起こした音でミネソタ・クレイに気付かれ、撃たれてしまいました。それでも彼のおかげで、本作は記念すべき“イタリア製西部劇 メアズ・レッグ初登場映画”となったのです。

3.『野獣暁に死す』(1968) 主人公を助ける仲間の一人ジェフ・ミルトンがおもむろに取り出し、最初の銃撃戦で酒場のテーブル越しに敵をぶち抜きます。誇張された威力がマカロニならではの迫力です。メアズ・レッグ専用ホルスターはサドル・リングを引っかけるツメの飛び出した、銃本体は剥き出しのものが多く見られますが、彼は通常の拳銃用ホルスターを模した大きめのガンベルトに入れておりました。ベースはM1892です。

4.『ウエスタン』(1968)】 静寂の導入部。ウッディ・ストロード扮するランチコートの殺し屋を、カメラがゆっくりとティルト・アップしていきます。その静かに佇む殺し屋の腰には、切り詰めたM1892が下げられていました。その殺し屋はおそろしく慣れた手付きでレバーを起こすと、ハンマーダウンする寸前に親指でブロック、暴発しないよう撃鉄を下ろします。そして薬室に初弾を送り込んだ後にさらにもう1発、弾倉に弾を込めるのです。それはまさに、プロの行う操作を演出していました。

5.『俺はサルタナ、銃と棺の交換だ(未)』(1970) これは珍しい。M1866“イエローボーイ”をCUT DOWNしたメアズ・レッグです。白いスーツ姿がキザなチャールズ・サウスウッドが、バカスカ撃ちまくってました。銃身先端を留めるフロント・バンドの上にわざわざ照星が乗ってます。丁寧な仕事ぶりですね。元々が近接戦闘用にカスタムされ、ランダル銃なんてリアサイトも外してあるのに、イタリア人のやる事は訳が判りません。“全ての未知はローマに通ず”ってやつでしょうか。

6.『西部悪人伝』(1970) “西部の007”サバタが、銃身のみを切断したM1866を使います。遠距離の敵を狙撃する際にはエクステンション・バレルを取り出して装着、「射程距離外だから当たりゃしねーぜ」とあざ笑う敵を次々に撃ち倒していきます。格好良いですよ。手首の周りに弾帯を巻き付けているのもオシャレです。ちなみに、姉妹編『大西部無頼列伝』(1971)でもM1866をベースにしたカセット・ガン、“ガンズ・バイブル”が活躍しますが、装弾方式からして異なる銃になってますので、これは除外します。

7.『マーベリックの黄金』(1971) アルメリア・ロケのMGM映画。ユル・ブリンナー、リチャード・クレンナ、共にマカロニ出演経験者ですし、テレスコープ付きシャープスが登場したり、喉を切られて声の出なくなった殺し屋が復讐を誓ったり…と、マカロニの影響が多々顕れている作品です。殺し屋に扮するのは、『スタートレック』のスポック役で有名なレオナード・ニモイ。彼の場合、喉を切られるよりも耳を切られる方がより面白いと思うのですが、M1892ベースのメアズ・レッグが活躍する唯一のハリウッド製西部劇です。

8.『ミスターノーボディ』(1973) 『ウエスタン』のウッディ・ストロードに対するオマージュをこめたのでしょうか。ランチコートを着た“ワイルド・バンチ”首領のジェフリー・ルイスが腰に下げていたのは、M1873ベースのメアズ・レッグです。『黒豹のバラード』(1993)のエンド・タイトルにも、ウッディ・ストロードへの敬意を込め、『ウエスタン』登場シーンのフッテージがそのまま流用されていましたね。

9.『荒野の七人(TVシリーズ)』(1998〜2000)  ジョン・スタージェスの同名映画をTV番組に置き換えたシリーズです。クリス(マイケル・ビーン)の参謀役ヴィン(エリック・クローズ)が持つのは、何とM1892改造のメアズ・レッグですよ。40年ぶりにTVに登場したことになりますね。映画版でヴィンを演じたスティーヴ・マックィーンのことを考えますと、これは意図的ですね。

 最後に、西部劇ではありませんが、ルトガー・ハウアー扮する現代の賞金稼ぎの活躍する映画を紹介しておきましょう。『ウォンテッド』(1986)で彼は、銃身・銃床を切り詰めた散弾銃にレーザーサイトを付けた物を用います。そして彼は、“ジョッシュ・ランダルの孫”と言う設定なんですね。自宅の壁には、かつて爺さんが愛用したM1892ベースのメアズ・レッグが飾ってあるんです。泣かせるではありませんか。


   『ウエスタン』でウッディ・ストロードが使ったメアズ・レッグ。レバーに溶接してある連射用ディバイスの凄み。
   『マーベリックの黄金』で賞金稼ぎ(レオナード・ニモイ)が使うメアズ・レッグ。レバーの形はノーマルなまま。
   『ミスター・ノーボディ』(SFではありません)のジェフリー・ルイス(右手前の人物:ジュリエット・ルイスのお父さんです)が腰にぶら下げている、M73ベースのメアズ・レッグ。

   最近、アメリカの銃規制が緩くなったのか、この様な銃も販売されるようになりました。『ゾンビランド』でもウディ・ハレルソンが使っていたかな?


(蔵臼金助)

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