『ビッグ・ガン』 (Togetter「蔵臼金助氏による『ビッグ・ガン』コラム再録ツイートまとめ」)

 『殺しのテクニック』と同じく、キングレコードから発売されたイタリアン・アクション・シリーズの中から、『ビッグ・ガン』に同封されたリーフ用に書かれたコラムになります。SPOからマカロニウエスタンを、ガトリングガンから吐き出される.45-70スプリングフィールド弾の様に撃ちまくっていた頃、キングレコードから西部劇以外のイタリア製娯楽映画をリリースしようぜということになったのだ。きっかけはまあ、私の好きな『殺しのテクニック』を出したかったからに過ぎないのですが、これを機にマカロニウエスタン以外のイタリア製娯楽映画、ジャッロやポリスチェッキ、マカロニ・コンバット...さらには、売れたらサンダル物とかSFとか、考えていたんですよ。SPOのマカロニウエスタンみたいに調子に乗って、未公開も含めたアクションや、ミステリー、モンド映画まで、色々出したかったんですよね。『殺しを呼ぶ卵』『華麗なる殺人』『殺しのギャンブル』『戦場のガンマン』『非情の標的』『黒い警察』などは救えましたが、『続・シンジケート』『ベアトリス・チェンチェ』『バニシング』『ミラノの銀行強盗』『明日よさらば』『国境は燃えている』は救えませんでした。ノーガキはこれくらいにして、アラン・ドロン主演の『ビッグ・ガン』のDVD用コラムになります。


『殺し屋の嘆き』

 一匹狼トニー・アルゼンタ(アラン・ドロン)は呟く。
「シシリアンは取り引きをしない」
 トニーはただの殺し屋ではない。シチリア生まれの殺し屋なのである。“マフィア発祥の地”、侵略と支配、排他的な島の人々、貧困、暴力、殺人、誇り…。『ゴッドファーザー』(72)を始め、『シシリアン』(87)『シシリアの恋人』(70)『シシリアン・マフィア』(72)『シシリーの黒い霧』(62)等々、数多くのイタリア映画で繰り返し描かれてきた、シチリア島と“シシリアン”の血塗られた歴史。今回“裏切BOX”で同時リリースされる『非情の標的』には、美化されてないリアルなシシリアンの殺し屋が登場するが、本作で描かれるのは家族や友人を大切にし、激情的で誇り高く、復讐心の強い、古典的なシチリア人殺し屋のキャラクターである。
 『サムライ』で見せた沈着冷静、寡黙な殺し屋がドロンの当たり役だが、彼の本質はむしろ氷の様な表情の下に燃え上がる感情を隠し持つ、本作のキャラクターの方が似合っている。妻子を爆殺された直後の彼を見よ。窓ガラス越しに捉えられた、目を見開く殺し屋の凍り付いた表情…このシーンにこの映画の主人公の全てがある。アラン・ドロンと言う、孤独な少年時代を送り、インドシナ従軍後、世界各地を放浪した過去を持つ、胡散臭く謎めいた二枚目俳優の魅力が凝縮されている。
 監督のドゥッチオ・テッサリは、マカロニウエスタンで名を上げた職人監督だ。彼は“マカロニウエスタンの貴公子”ジュリアーノ・ジェンマを発掘、イタリア製西部劇のアイドル・スターに仕立て上げた。『荒野の大活劇』『夕陽の用心棒』などコメディ・タッチの作品もこなすが、傑作『続・荒野の1ドル銀貨』の様に家族を取り戻そうとする男の復讐劇も得意とする。彼はアラン・ドロンの持つ影の魅力を一瞬で見抜き、ドロンのフィルモグラフィ上最もハードなアクション劇で、悲劇の主人公を演じさせた。

 主人公トニーの使う“ビッグ・ガン”は、コルトの自動拳銃M1911A1である。従軍時代に使い慣れていたのだろうか、アラン・ドロンはスクリーンの中でこの.45口径のオートマチックを頻繁に愛用する。『さすらいの狼』『スコルピオ』『危険なささやき』…。『ジェフ』での、射撃直後の片手で撃鉄を下ろす仕草に痺れたファンも多いことだろう。本作でも大口径の迫力を活かした、一発で敵を仕留める殺しのシーンが印象的だ。激情に駆られたシチリア人殺し屋の武器として、この銃はぴったりなのである。(リアルなシシリアンの殺し屋は、裏切り者に対する制裁に銃身を切り詰めた水平二連の散弾銃を用いる。『追想』のフィリップ・ノワレのように)
 『ビッグ・ガン』の伊オリジナル題名は“Tony Arzenta”だが、米公開題名は日本と同じ“Big Guns”。直訳すると「大きな銃」であるが、「組織の大物たち」と言う意味も持つ。狙われる大物たちは、米・独・仏・伊出身と多彩で、豪華な配役だ。トニーの宿敵でかつての雇い主に扮するのは、『ゴッドファーザー』『オーシャンと十一人の仲間』に出演したハリウッドの名脇役リチャード・コンテ。組織の幹部には、『華氏451』でオスカー・ウェルナーの憎々しい同僚を演じたアントン・ディフリングがいる。彼は『誇り高き戦場』『荒鷲の要塞』『暁の7人』などのドイツ軍人役でもお馴染みだ。『虎は新鮮な肉を好む』『ジャガーの眼』などフランス製スパイ映画で活躍したロジェ・アナンに、『狼の挽歌』『レディ・イポリタの恋人/夢魔』のウンベルト・オルシーニもいる。
 家族だけが全てだった凄腕の殺し屋が、心の支えを失い、雇い主に牙を剥いて、ついには組織を壊滅へと追い込む。そして、最後に彼が信じたもの。その非情な結末で見せる彼の表情は、一度見たら忘れられないだろう。


(蔵臼金助)

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