『荒野の七人』 (Togetter「蔵臼金助氏による『荒野の七人』コラム再録ツイートまとめ」)

 「たまには正統派西部劇を採りあげな、若いの」と爺さんガンマンからリクエスト頂きましたので、正統派西部劇について連射します。拙著『マカロニウエスタン銃器「熱中」講座』に書き下ろしたもので、「ブラス! 真鍮フレームのコルトにまつわる6つのエピソード」の中のひとつの再掲になります。

『太陽の黄金のコルト』

 “君よ知るや南の国”、イタリアはローマ、チネチッタ・スタジオの穏やかな陽光に、あるいは、アルメリアの砂漠の強烈な日差しに照らされて煌めく、黄金色のフレームを装着したコルト。ハリウッド製西部劇には殆ど出て来ないこのカスタム仕様のコルトを、『荒野の用心棒』以降、イタリア人ピストレロは好んで腰にぶら下げるようになりました。コルト社純正のS.A.A.はスティール製フレームがデフォルトとなっており、正統派西部劇でブラス・フレームを持つコルトが活躍する機会は殆ど無かったのです。しかし、例外が幾つか存在します。ハリウッド製西部劇に真鍮製フレームのコルトが登場した稀有な例をご紹介しましょう。
 実は、最初にブラス・フレームのコルトが登場したのは、イタリア製西部劇ではありません。ユナイトが1960年に公開したハリウッド製西部劇、『荒野の七人』でした。この映画の中で、スティーヴ・マックィーン扮するヴィンは、照星を削り落とした7.5in.銃身のコルトS.A.A.に、木目の美しいウォルナット・グリップと、ピカピカに磨き上げられた真鍮製グリップ・フレームを取り付けていたのです。リバイバル公開時に劇場で観た時は気付きませんでしたが、きっかけはDVD化された際の特典映像でした。ユル・ブリンナー始め、他の出演者たちが皆、マックィーンの銃に憧れたと言うのです。そう思って観察すると、彼のコルトには黄金色のフレームが装着されてあったのです。そりゃあ目立ちますよ。ベルトに差し込んだバックアップ用5.5in.にも、真鍮フレームが装着されていました。

 『荒野の七人』はメキシコでロケがなされたことになっていますが、西部劇のロケ地に詳しい人たちの話によると、『荒野の七人』でも一部、スペイン・アルメリアでロケがなされた形跡があるそうです(『続・荒野の七人』は全編アルメリア・ロケでした。…ということは、『荒野の七人』の撮影に携わったスペイン、あるいはイタリア人等の欧州のスタッフが、マックィーンが使った特製コルトの格好良さに感動、その後イタリア製西部劇に登場させた可能性が無いとも言い切れません。レオーネが『荒野の七人』を観た際にマックィーンのコルトに注目、ウベルティ社にその仕様で発注させたのかもしれませんが、いずれにせよ、イタリア製西部劇に真鍮フレーム・コルトを普及させるきっかけを作ったのが、スティーヴ・マックィーンである可能性はじゅうぶんあり得ます。
 『荒野の七人』の出演者たちはその後、次々にマカロニ・ウエスタンに出演するようになりました。ユル・ブリンナーは『大西部無頼列伝』に、チャールズ・ブロンソンは『ウエスタン』に、イーライ・ウォラックは『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』に、ジェームズ・コバーンは『夕陽のギャングたち』『ダーティ・セブン/要塞攻防戦』に…。イタリア製西部劇から最も遠い所にいるかに見えたマックィーンが、マカロニ・ウエスタンの小道具に多大な影響力を与えたとしたら、面白くありませんか?

(蔵臼金助)

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