『盲目ガンマン』 (Togetter「蔵臼金助氏による『盲目ガンマン』コラム再録ツイートまとめ」)


 私の愛して止まないマカロニ・ウエスタン。フェルディナンド・バルディが監督し、『暁の用心棒』のトニー・アンソニーとビートルズのリンゴ・スターを招いて作った、『盲目ガンマン』。

「火器撃てば、鐘が鳴るなりブラインドマン」
 SPOマカロニDVD-BOX収録リーフレットに収録、改訂後『マカロニウエスタン銃器「熱中」講座』に掲載。

 ウインチェスター・ライフルと共に“西部を征服した銃”、コルト・シングル・アクション・アーミー。
 他にも幾つかのニックネームが存在します。有名なのは“ピースメーカー”でしょう。その威力でもって西部に平和をもらたした…ということらしいのですが、少なくとも先住民族にとっての平和でないことは確かですな。“シックス・シューター”“フロンティア・シックス”との言い方もあります。しかし、たまに7発、時々8〜9発、稀にファニングで10数発の弾丸が飛び出すマカロニ・ウエスタンにおいては、ふさわしいネーミングではありません。さらには、“サム・バスター”“ホッグ・レッグ”なんて言い方もありました。
 そして、その中に“イコライザー”との呼び方があります。“EQUALIZER”〜「銃の力によって、誰もが対等に立てる」…と言う意味です。
 イタリア製西部劇にはハンディキャップを背負ったキャラクターが度々登場しますが、その最も顕著な例が本作の全盲のライフル使いでしょう。ハンディを乗り越えて宿敵を倒すところに観客はカタルシスを感じる仕組みですが、マカロニにおいてそのハンディを埋める役割を担うのが銃器なのです。この映画の中では正にライフルが、“イコライザー”として機能しているんですね。
 ここではブラインドマン愛用、“目の不自由なガンマン御用達”ウインチェスターM66について解説いたします。

 1866年。ニュー・ヘブン・アームズ社を買収したオリバー・F・ウインチェスターは、社名をウインチェスター・リピーティング・アームズ社と改め、ヘンリーライフルを改良した新型銃を売り出しました。それが、初めてウインチェスターの名がついたM1866、通称“イエローボーイ”です。ヘンリー譲りの黄金のフレームがネイティヴアメリカンに好まれ、彼らによって名付けられました。
 それから百年後、今度はこの銃のデザインをイタリア人が気に入ってしまいます。イタリア製西部劇ではこのライフルが頻繁に登場、カスタムアップされ、主人公を助けるのですよ。
 目の不自由な主人公が杖代わりに使用するこのライフルの、スタンダードなM1866と異なる点は三箇所。
 一目で判る違いはバット・ストック。肩に当たる部分が扇形に広がり、目の不自由なガンマンがいたらかまえ易いだろうなと想像させる形状です。大きめなブリムのカウボーイハット(弾帯を兼ねたハットバンドが機能的です)のデザインにもマッチしてますね。
 フォア・ストックにも改造が施され、通常のウインチェスターの先台はチューブ・マガジンと銃身下部を覆うだけですが、彼のカスタムライフルは銃身全体を覆う形状をしてます。これだと、連射して熱くなった銃身にうっかり触れたとしても、火傷を負わずに済むでしょう。
 最後は、銃身先端部。バヨネット(銃剣)らしき物が装着してあります。これを武器にするシーンは無いので、単に杖代わりとして延長させるためのパーツだと思われます。銃口で直に地面を突いてしまうと銃身内部に異物が入り込み、暴発の原因になるのです。

 『盲目ガンマン』は、ジャンルを超えた傑作です。望遠レンズを効果的に使ったカメラは素晴らしく、滅多に鳴らないチプリアーニの音楽はここぞと言う所で場面を盛り上げてくれます。残酷描写の後のトニー・アンソニーの乾いたユーモアも良いです。そして全体に渡ってバランスの良い映画は、小道具にも充分気を遣ってくれます。
 アクションシーンの演出も見事ですよ。特にキャンディの手下を全滅させるシーン。「Piece(平和を)!」…盲目の男は乱暴を働く山賊たちに呼びかけ、その直後、彼らはライフルの巧みな連射で皆殺しにされます。小突かれ、突き飛ばされながら、主人公は相手の位置を確認していました。トニー・アンソニー演じるこのキャラクターは、まったく侮れません。
 トニー・アンソニー…昔、“トニパキ”なんて俳優がいましたが、それに習って略すと、“トニートニ”でしょうか。彼の出演した西部劇にはパターンがあります。『暁の用心棒』から始まりその後日本にまで遠征した“よそ者”シリーズ、奇想天外にストーリーの膨らんだ『Get Mean』、3Dマカロニ『荒野の復讐』…いずれもが異文化の中でカルチャーギャップをものともせず、郷に入っても己のルールを押し通す根性のあるガンマンを主人公としています。対立する勢力間でお宝(大抵は大量の黄金か大勢の女)の匂いを敏感に嗅ぎ分け、隙あらば独り占めしようと企むそのせこい根性、やられたらきっちり1ドル単位でやり返す会計監査士的ペイバック…そのキャラクターは他のマカロニの主人公の様に復讐や怨念を引きずってるわけでなく、あくまでポジティブ。リストラに遭った多くのサラリーマンに支持されたと聞きます(うそ)。
 そして、何故か物語の途中で手に入れる必殺兵器。“よそ者”シリーズの主人公は毎回クライマックス直前に散弾銃を入手し、使用しました。『Get Mean』にはプリミティヴな大口径銃、『荒野の復讐』ではスライド・アクションの散弾銃が登場しますが、彼らは常に「散弾銃」を「途中から」手に入れます。
 しかし、本作の『盲目ガンマン』のみが、「ライフル銃」を「最初から」愛用しています。おそらく、他の作品とはおおいに異なる本作のキャラクターを際立たせるために、敢えてブラインドマンには“イコライザー”であるウインチェスターを作品冒頭から持たせることにしたのでしょう。
 トニー・アンソニーがスクリーンから消え、30年が経とうとしています。出来れば、本作の様な徹底した娯楽映画の新作を観たいものです。本当に面白い映画が何故今は作られないのか? 私は毎日、神に問いかけているのですが…、答えはありません。

「毎晩、神に尋ねている。“主よ、真の友達は誰ですか?” 毎晩尋ねているが、答えは同じだ。 …答えはない」
『盲目ガンマン』(1971)より、主人公ブラインドマンの台詞。


(蔵臼金助)

Back