『西部のリトル・リタ〜踊る大銃撃戦〜』 (Togetter「蔵臼金助氏による「何かいいコルトないか子猫ちゃん」(西部のリトル・リタ解説)」)

 時計の針が深夜をまわりましたが、捜索隊が収穫無しに戻ってまいりましたので、これからDVDに未収録(全巻購入特典に収録)だった、『西部のリトル・リタ』解説をのんびりめにつぶやきます。

西部のリトル・リタ〜踊る大銃撃戦〜 (1967)
LITTLE RITA NEL WEST

『何かいいコルトないか子猫ちゃん』

 青春時代に観て感激したマカロニ・ウエスタンを今新たに観直すと、トホホ…の場合がよくあります。しかし、それは正しい鑑賞方法ではありません。観た当時の中学生、または高校生の心に戻って、無心に観るのが正しいのです。奇跡的なGUNプレイは素直に驚きましょう。コルトから放たれた弾数を数えるのはやめて下さい。ドラマチックな音楽に酔い、主人公の格好良さに同調するのが、マカロニを楽しむコツです。くれぐれも童心に還って観ちゃいけませんよ。幼い心で頭の皮剥いだり、額に風穴の空くUPを観たりすると、トラウマになっちゃいますからね。
 数多くのマカロニを見慣れた猛者でも、『西部のリトル・リタ』を観るとカルチャー・ショックを受けます。『殺しが静かにやって来る』とか『バンディドス』等、“鬱系”のマカロニしか受け付けないDNAが体に組み込まれている私は、インディアンの扮装をしたイタリア人が輪になって踊るところで、「どうしようか」と思ってしまいました。では、面白くないのかと言われると、とっても面白いんです。
 マカロニ・ウエスタンでミュージカル! 悪夢の様な組み合わせです。本格的なミュージカルなので、ガンマンもインディアンも歌い踊るし、マカロニなので、オチは常に「皆殺し」です。
 主演女優は当時コニー・フランシスと並ぶ人気を誇ったカンツォーネ歌手ですが、リタ・パヴォーネの女ガンマンぶりは板についています。銃の扱いはもちろんのこと、殴り合いも真剣です。特異な作品が多いイタリア製西部劇の中でも、この作品は異色中の異色作。そしてこの映画は、銃器研究の観点から観ても非常に興味深いんですよ。
 “早撃ちリタ”愛用の、黄金のコルトから見ていきましょう。

・グリスウォルト&ガンニソン .36口径
 コルトM1851ネービーのコピー・モデル。南軍が主に使用。鉄の不足により、メインフレームも真鍮で作られ、ラウンドバレル・モデルとなっている。


 この銃のベースは、アメリカで「ネービー・アームズ」という代理店から、“1861コルト リボルバー ”との名称で販売されていた、ラウンド銃身を持つイタリア製レプリカ・オリジナル・モデルです。本来コルト社が発売してた“M1861 ネービー”は、クリーピング・スタイルのローディング・レバーを持つ、形状的にはM1860アーミーによく似た.36口径のパーカッション・レボルバーですが、この銃はオリジナルデザインで、コルト ドラグーンの小型版とも言えるスタイルを持っています。この銃のモデルは、南北戦争時代にセカンド・ブランドのメーカーがコルト社のM1851ネービーを真似て作った、グリスウォルト&ガンニソンという、.36口径のリボルバーなのです。他にも当時ヒットしたM1851ネービーのコピーは数多く製造され、リーチ&リグドン、ダンス&ブラザースなど、中古市場ではちょっとお値打ち価格になりそうな、コルト・ネービーの模造品が溢れていました。

・リーチ&リグドン 同じくM1851ネービーのコピー・モデル。メインフレームは鉄製。

 リタの銃は全体に金メッキがかけられているので判別出来ませんが、グリスウォルト&ガンニソンのメインフレームは真鍮製です。戦時中なので、鉄が不足していたんですね。イタリア製レプリカはその点も忠実に復刻、メインフレームとトリガー・ガード、バック・ストラップは真鍮で作られました。
 このネービーもどきはマカロニ・ウエスタンによく登場します。『風来坊』でバンビーノ(バッド・スペンサー)が持っているのがそうですね。『虹に立つガンマン』でクライマックスにスタークが用いたネービーは、実はこの真鍮フレームのコピー・ネービーです。他にも、『ドルの両面』では主人公が愛用し、『さすらいのカウボーイ』では主人公の相棒アーチ(ウォーレン・オーツ)が使いました。その、コルト・ネービーのコピーのコピー、“1861コルト リボルバー ”に金メッキを施し、カートリッジ・コンバージョンに改造したのが、リタ愛用の拳銃です。この銃は凄いですよお。何しろ擲弾発射器として使用出来るのですから。21世紀になってもハンドガンをグレネード・ランチャー代わりに使用することは難しいのに、19世紀の設定でこの技術を…あ。銃箱の隅をつついてはいけませんね。
 リタが対決するガンマンの一人、シガーをくわえてポンチョを羽織った男の持つ銃も興味深いです。馬の鞍に取り付けられたサドル・バッグには、着脱式銃床と共にコルトM1851ネービーのレプリカが留められています。言うまでもなく、『夕陽のガンマン』のモーティマー大佐のパロディですが、実は、こちらの方がリアルな装備を使っています。木製の着脱式銃床はパーカッション・レボルバー用に多く作られており、S.A.A.用のものは殆ど存在しません。しかも、モーティマー大佐はわざわざバントライン・スペシャルのグリップフレームに加工をして、S&W製ストックを…おっとっと、無心に鑑賞しなくては。
 次に対決するガンマンは、棺桶を引きずり、ぼろぼろの軍手をはめた男です。デジャ・ヴを感じる方もおられましょうが、何と! 棺桶の中身はマシンガンですよ! 素晴らしいアイデアではありませんか。棺桶からいきなりマシンガンを取り出し、バリバリと撃ちまくる描写があったら、この映画は傑作になって…。中学生の心に戻って、45年前のマカロニ・ウエスタンを見直すのは、なかなか難しい作業ですね。

(蔵臼金助)

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