『さすらいのガンマン』 (Togetter「蔵臼金助氏による『さすらいのガンマン』コラム再録ツイートまとめ」)

 スティングレイ発売マカロニ・ウエスタンBOX『さすらいのガンマン』リーフレットに掲載。
 『マカロニ・ウエスタン銃器「熱中」講座』に再掲。

『ふぞろいのグリンゴたち』

 1966年。高度経済成長の勢いが衰えぬ日本において、『さすらいのガンマン』は公開されました。哀愁漂ういい邦題です。ポスターには愁いを帯びた髭面のガンマンが銃をかまえています。荒野をさすらう、一匹狼のガンマンが主人公なんでしょう…そう思って劇場に入った観客は、オープニングで恐怖のどん底に叩き込まれました。主人公と思われたその男は、登場するやいなや女子供を平然と射殺。挙げ句の果てに歓びの表情をたたえつつ、インディアン娘の頭皮を剥いでしまったのであります。こうして、マカロニ・ウエスタン最恐・最悪のキャラクター、ダンカンが登場いたしました。当時、劇場でトラウマに陥った観客は、その後“ダンカンの世代”と呼ばれたそうです。イタリア製西部劇に登場する主人公は、圧倒的に“アウトサイダー”によって占められております(占有率95%:当社比)。

 例えば肉体的にハンディを背負っていたり、精神的に傷を負っていたり、人種的にマイノリティーだったり。あるいは私生児だったり、流れ者だったり、賞金首だったり。組織やコミュニティにとけ込んでいるマカロニのキャラ、町の決起集会で演説を奮う主人公を観た事がありません。本作も例外ではありません。“ジョー”と言うマカロニではありふれた、しかしインディアンにしては不思議な名を持つナバホの若者が主人公。そして敵役も、インディアンの血が流れている事でコンプレックスを持つ凶悪な男です。言ってみれば“はみ出し者”同士による兄弟喧嘩みたいなものですが、この一筋縄でいかぬ設定にコルブッチの主張を垣間見る事が出来ます。頭の皮を剥ぐ蛮行もハリウッド製西部劇においてはインディアンの行為と相場が決まっておりました。しかし、元々は白人が植え付けた習慣なのだそうです。その意味合いを考えるのも面白いでしょう(『地獄の頭皮考』…なんちってな)。

 でも、ここでは“本当の主人公”ナバホ・ジョーの、片腕とも言うべきウインチェスターについて再考してみたいと思います。
“西部を征服した銃”とのニックネームを持ち、コルトS.A.A.と共に西部劇においては最も知名度の高い銃、ウインチェスターM1873。マカロニ定番のM1866“イエローボーイ”をベースに、軟弱リムファイア弾を強力な.44-40センターファイアへとパワーアップ。真鍮フレームも鋼鉄へ変更されました。排莢口にはダスト・カバーも設けられています。
 しかし、この銃が1960年代当時、スクリーンに登場する事は稀でした。レプリカが流通していなかったのです。そこで、ハリウッド製西部劇ではM1892が、イタリア製西部劇においては、M1866のレプリカやM1894が代用される事になります。本場ハリウッド製西部劇はもちろんの事、マカロニにも滅多に登場しないM1873ですが、本作に登場するウインチェスターは、由緒正しい1873年型カービンなのです(チネチッタで撮られた室内シーンのみ、M1894に変わります)。銃身先端とフロントバンドに羽根飾りが付き、フィンガー・レバーにはプリミティヴなデザインの連射用ディバイスが装着されました。私はこの作品のバート・レイノルズ以上に、迫力あるウインチェスターの連射シーンを演じた役者を観た事がありません。
 実際のインディアンは好んでイエローボーイを使用したと聞きます。何故コルブッチはマカロニに溢れ返っているM1866ではなく、珍しいM1873をナバホの若者に持たせたのでしょう? 推測ではありますが、今まで西部劇で悪役しか回って来なかったインディアンに、歴史的に正しい由緒あるライフルを持たせてみたい…彼はそう思ったのではないでしょうか。「“本当のアメリカ人”の持つ、“本当のウインチェスター”」。この縮図に、コルブッチが込めた想いを読み取ってみて下さい。

(蔵臼金助)

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