『豹/ジャガー』 (Togetter「蔵臼金助氏による『豹/ジャガー』コラム再録ツイートまとめ」)

 スティングレイから発売されたBOXに付いていたリーフに執筆したものになります。

『プロフェッショナル/雁』

 “豹”はユーラシア及びアフリカ大陸に棲息、“ジャガー”はアメリカ大陸に棲息する、食肉目ネコ科の哺乳類…だそうです。と言うことは、本作『豹/ジャガー』の“/”とは、「=」ではなく、「&」の意味だったんですね。(正しい使用例:『肉/ジャガ』、 誤った使用例:『ハムナプ/虎』、『獅子/カバブ』、 応用例:『Corri Uomo Corri』→『狐/狸/馬/キツネ/タヌキ』)
 『馬/シカ』はこれくらいにして、ここでは主人公セルゲイ・コワルスキーが愛用するスペイン製自動拳銃と、彼が戦闘中に組立賃200ドル(消費税込、射撃代は別途)を請求した機関銃について解説します。セルゲイの職業は「傭兵」〜金で戦闘を請け負う“戦争プロフェッショナル”であります。シェークスピアの著作からの引用により“戦争の犬”、あるいは、戦場を求めて渡り鳥の様に飛び回った事から“ワイルド・ギース(野生の雁)”と呼ばれた彼らは、武器を選択する際も卓越した視点を持っていました。20世紀初頭の傭兵が選んだのは、口径9oならだいたい弾丸が適合するチューブラー・ピストルと、アメリカ資本によりオーストリア人が考案し、フランスで製造されたマシンガン…。30年以上前にイタリアで作られた無国籍アクション、ポーランド人傭兵が主人公のメキシコ革命劇にはぴったりの小道具ですよ。

【ホチキス Mle 1900】
 映画の中で“ホーキンズの最新式”と呼ばれ、セルゲイが自動車に搭載してメキシコ軍を蹴散らした機関銃が、ホチキスMle1900です。前世紀初頭は世界中で動乱、紛争が勃発。ホチキスはその名に恥じず、あちこちで生じた綻びを綴じ合わせておりました。第一次世界大戦ではフランス、イギリス、アメリカ軍が採用、日露戦争では日本軍も使っています。映画に登場したモデルはメキシコ革命で実際に使用され、エンリケ・クラウゼ著「FRANCISCO VILLA, ENTRE EL ANGEL Y EL FIERRO」掲載の、当時撮られた数枚の写真の中に見る事が出来ます。マカロニに登場する機関銃としては珍しい、実在した由緒正しい銃だったのです。オーストリア/ハンガリー帝国陸軍大尉アドルフ・フォン・オデコレック男爵が、当時フランスに在ったホチキスCie社(アメリカ人ベンジャミン・バークレイ・ホチキスが創業)を訪ね、彼が考案したガス圧利用の作動方式を、アメリカ人技師ローレンス・ベネットが組み込んで完成させました。このエピソードだけでも充分マカロニの題材になりそうです。オデコレック男爵役はジェラード・ハーター、ベネットはジョージ・マーティンが適役でしょう。

 続けて、西部劇に登場した自動式機関銃を幾つか、ご紹介しましょう。

【シュワルツローゼ 07/12】
 箱状と円筒形の物体を組み合わせ、銃口からボアボアとアセチレンガスの炎が噴き出るマシンガンが活躍するのが当たり前だったマカロニの世界で、いきなり実銃の機関銃が登場したのが『暁の用心棒』でした。ヴァンス・ルイス監督はこの映画で、フランク・ウォルフに第一次大戦中オーストリア軍が航空機搭載用機銃として採用した、シュワルツローゼ 07/12を撃たせております。撃つばかりではなく、弾丸を装填・発射・排莢するプロセスを全て見せ、カタカタとハンマーが安っぽく動くのがリアルでした。マキシム機関銃の代用品として登場させたのでしょう。1890年代のメキシコ国境近い寒村が舞台なのに、1907年にオーストリアで開発されたこの銃が出てくるのがちょっと残念です。発射シーンはありませんが、『五人の軍隊』では何と三挺ものシュワルツローゼ機関銃が、砂金を運ぶ武装軍用列車に搭載されていました。

【マキシム機関銃】
 近代的機関銃の基礎を築いたのが、ハイラム・マキシムの設計したガス圧作動で自動的に給弾・発射を繰り返すマキシム機関銃です。『荒野の用心棒』でまがいもののマカロニ・マシンガンを出してしまった屈辱を晴らす機会を、セルジオ・レオーネは虎視眈々と狙っていたに違いありません。メキシコ革命に登場する機関銃としては正しいこの銃器を、『夕陽のギャングたち』のロッド・スタイガーはバリバリ豪快に撃ちまくります。その時ジェームス・コバーンは、ドイツ軍の誇る第二次世界大戦中に開発された主力兵器MG42を撃ってますが、片目を瞑っておきましょう。さらには森の中や貨車のシーンで、チェコのZB53を元に英国が1930年代にライセンス生産した、BESAマシンガン・イタリアン・バージョンがちらほら見える気もしますが、頭を下げて地に伏せ、見ない様にして下さい。

【ブローニングM1917】
 『ワイルドバンチ』のもう一つの主役とも言える重機関銃が、ブローニング水冷式マシンガンM1917です。スクリーンで『ワイルドバンチ』を最初に観たのは、池袋の文芸座においてですが、映画終了間際の休憩室で待っている時でさえ、その重機関銃の迫力ある銃声はロビーにこだまし、次の上映時間を待つ観客たちを驚愕させていました。それは、今までの西部劇では馴染みのない、フル・オートマチックの大口径機関銃が発する連続射撃音だったのです。6連発はおろか、手回しのクランクによるガトリングガン等とは全く異なるその大迫力の音響は、西部劇のみならず、この作品以降のガンアクション映画の歴史を塗り変えてしまいました。第1次世界大戦に備え、ジョン・M・ブローニングが1900年に試作した反動利用のマシンガンに米軍が注目、発展・改良させたのが、このM1917です。アメリカ陸軍が制式採用する際のマキシム・ビッカース・マシンガンとの比較試験で、このブローニングのマシンガンは、48分12秒もの間故障・停止することなく弾丸を発射し続けたと言います。レシーバー下部に追加された強化板とリベット、独特な射撃角度調整板を備えた三脚などから、本作に出てきたブローニング機関銃は、1930年代に陸軍造兵廠で改良を加えられた、M1917A1である事が判ります。マキシム機関銃とは異なるピストル・グリップを握りしめたまま死んでいったパイクの姿は、涙なくしては観ることが出来ません。

【ルイス機関銃】
 『誰がために鐘は鳴る』でゲイリー・クーパーと一緒に写ってることで有名な機銃です。『プロフェッショナル』では銃器のスペシャリスト役のリー・マーヴィンが腰だめで撃ってました。ギルバート・ローランドとロリー・カルホーンが出演したメキシコ革命劇、『黄金の銃座』にも登場します。マカロニで見たことはありません。銃身を取り巻く円筒状の空冷式放熱カバーが特徴のこの銃は、米陸軍アイザック・ニュートン・ルイス大佐が1911年に完成させ、ベルギーと英国で採用、主に第一次大戦において使用されました。

(蔵臼金助)

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