『西部悪人伝』『大西部無頼列伝』『西部決闘史』 (Togetter「蔵臼金助氏による『sabata』シリーズ・コラム再録ツイートまとめ」)


『大西部小型銃列伝(SON OF A ...... GUN!)』

 歌手テレサ・テンをめぐってはその唐突な死と共に、「スパイ説」「謀殺説」、諸説が飛び交いましたが、知人のロシア系アメリカ人アニー・ハカランヤ(43歳・♀)によりますと、テレサ・テンが台湾・国民党のスパイであったのは真実で、彼女亡き後はテレサ・イレブンが活動中、その背後で彼女らを率いているのは、マザー・テレサとの事です。くだらない冗談はさておき、“西部の007”です。“西部の077”ではありません。それはウイスキーをベースに、タバスコとミルク、トマトソースに生卵を加えたジョニー・オロ特製“地獄のカクテル”を、ステアせずにシェイクで…これも嘘です。
 もはや何を書いても信じてくれなさそうですが、'70年代に入ると粗製濫造されたマカロニも次第に飽きられ、作り手も多種多様な工夫を施す様になってきたのは、本当の事です。コメディ化、ホラー化、ニューシネマ化…そんな中でマカロニ特有の残虐性、暗鬱なムードを排し、ハリウッドのジェットコースター・ムービーに近い要素を持たせたのが、“サバタ”シリーズです。ストーリーはテンポ良く、画面はスタイリッシュ。劇画タッチが強調された演出と新しいコンセプトのもとに、『夕陽のガンマン』の辣腕プロデューサー、アルベルト・グリマルディが制作。監督は『戦場のガンマン』のフランク・クレイマーです。いかがわしい名前ですね。本名はジャンフランコ・パロリーニ。『招かざる客』や『手錠のままの脱獄』の名匠、スタンリー・クレイマー監督を尊敬していたのかも。本人が知ってクレームをつけ、訴訟問題になったら、クレイマーvsクレイマーになりかねません。何たってメジャー制作。金のかかったマカロニですよ。そこに在るのは純粋な娯楽だけ。クライマックス以外でも爆発シーンが出てきます。決闘が始まると“通行人”が蜘蛛の子を散らす様に避難します。唐突に、インディオ・ブラックが頭皮を剥がされたり、サバタが指を切られ、口にねじ込まれる残虐シーンが出てくることもありません。御家族お誘い合わせの上、鑑賞可能なのもポイントが高いです。
 そして、銃器描写にも当然力が入ってます。特にこの“サバタ”シリーズには専任のArmorer(アーモラー:映画用に銃器を用意する係)がついているようで、ひとつのコンセプト、世界観に基づいて銃器考証を設定している向きが見られます。他のイタリア製西部劇には見られない、その特徴を挙げてみましょう。

【1.“コンシールド・ウェポン(隠し持つ武器)”が主役である】
 “西部の007”ですので、掌に隠れるサイズの銃器が主流となります。間違っても決闘時にサバタがパイプオルガンを演奏、実はそれが秘密兵器だった…なんて事はありません。敵方も含め、メインウェポンにはデリンジャー等の小型拳銃、切り詰められたライフル銃などのコンパクトな火器が用いられます。

【2.一見、武器に見えない秘密兵器が活躍する】
 あらゆる物に銃器が隠されるのはマカロニの“売り”ですが、このシリーズでその特徴はさらにエスカレート、楽器や帆船模型、テーブルの下や本の中に仕込まれるだけでなく、鉛の球と靴が組み合わされた時に武器となるキック・ガン、人間パチンコなどの秘密兵器、葉巻や靴底に隠された磁石、只のコインでさえもが武器となって活躍します。

【3.観客の間に失笑が漏れない程度のリアルさを保っている】
 荒唐無稽に見える7連発デリンジャーや、銃身を選択出来るライフルですが、手袋に仕込んだパーム・ピストル、帽子に隠れるナックルダスター等の実銃と並んで違和感がありません。「バカバカしさぎりぎりのところでやってきた」と、リー・ヴァン・クリーフはあるインタビューに答えていますが、その思想が銃器の設定にも活かされているのです。

では、作品毎に具体例を挙げて解説します。

『西部悪人伝』
 サバタは銃身を選択可能なウインチェスターM66と、多銃身カスタム・デリンジャーを愛用。『決闘史』で靴底の磁石に張り付いてたシャープス・デリンジャー(実銃)と同様、四連銃身を持ち、グリップの底からさらに三発の連射が可能です。「銃身を取り替えると精度が悪くなるのでは?」「最後の三発の撃発方法が判らない」等の鋭い疑問は、イタリア製西部劇を正しく鑑賞する上でのマナー違反とされておりますので気を付けましょう。このデリンジャーの撃発システムはローマ法王にだって判りません。

『大西部無頼列伝』
 時代設定が他二作と異なりますので、例えば長物は元込式単発銃しか出さない等の工夫をしてます。それで、連射可能なカセットガンが目立つわけです。“ガンズ・バイブル”と愛称が付いたそのオリジナルの銃は、モデルが存在してました。天才銃器設計家ジョン・ブローニングの父親が設計した試作連発銃、十連発のジャーレ・ピストル、いずれも箱形弾倉を横から差し込む形式の“ハモニカGUN”と呼ばれる銃です。バランタインが戦闘中に拾い、最後に橋を爆破させるのに使うダブル・アクションのリボルバーにも要注意。銃身とエジェクターに手が加えられてますが、ラスト&ガッサー M1898と言うオーストリア/ハンガリー帝国将校用リボルバーです。セプテンブレの“キックガン”は、フランク・クレイマーがタイでムエタイ観戦中に思いついたとの事。常に仕事熱心な監督だったのであります。

『西部決闘史』
 『悪人伝』に引き続き、七連発デリンジャーが活躍。冒頭の決闘で装填シーン、「初めて弾を外す」ところでUPが観られます。CUT銃身のM66は今回、テーブルの下に隠されただけなのが残念ですが、珍しいパーム・ピストルの発砲シーンが出てきます。サバタが12ドルで購入した、そのどう見ても武器に見えない銃は、「掌の中」に「握って」撃つところから“Palm-Squeezer”と呼ばれ、今では2,000ドル近い値段が付けられています。マキントック愛用の“アパッチ”ナックルダスターも、ブラスナックルと両刃のナイフ、7o弾を撃ち出す銃身を兼ねたシリンダーが組み合わさった不思議な武器ですが、実在したものです。ブロンコの転がす太鼓がまた何と言うか…。コルトをずらりと円周に沿って固定し、撃ちまくるのです。確かにファイア・パワーはありそうですが、いやはや何とも。ひょっとして、「バカバカしさぎりぎりのところ」を超えちゃったのでは?


 
 今日は豪華二本立て。先ほどのは拙著に再録いたしましたが、誌面の都合で次のコラムは再録されていません。DVD-BOXのリーフに掲載されたもので、ユル・ブリナーの紹介記事になります。

『ピアニストよ撃て! 〜ユル・ブリンナーの“インディオ・ブラック”〜』

 リー・ヴァン・クリーフにユル・ブリンナーと聞いて、『金星人地球を征服』『SF最後の巨人』を思い出した貴方、間違った所に来てしまいましたね。クリーフにブリンナーと言ったら、もちろん“サバタ”シリーズですよ、貴方。“タバサ”じゃないですよ。それはサマンサの娘。黒のカウボーイ・ハットとインバネス・コート姿で颯爽と現れ、改造ウインチェスターとデリンジャーをドカドカ撃ちまくる謎の男“サバタ”。正にイタリア製西部劇の「革命児」であります(←それは、“サパタ”)。
 イーストウッドが『殺しが静かにやって来る』のサイレンスに惹きつけられた様に、ユル・ブリンナーは『西部悪人伝』のサバタ役に憧れました。彼には『七人の侍』の勘兵衛を観て「俺もやってみたい」と手を挙げた前科がありますが、“西部の007”のあまりの格好良さに、「この役も俺がやりたい」と思ったのであります。『風来坊』を観てトリニティ役をやりたいと思わなかったのは賢明でしたね。クリーフ自身は、「続編の脚本が気に入らなかったので役を降りた」とインタビューに答えてますが、ユル・ブリンナーがこの役に惚れ込み、強引に割り込んだ感があったのは確かで、原題に公開各国の温度差を感じ取ることが出来ます。米公開版原題では『Adios Sabata』と“本名”を名乗っておりますが、英国でのタイトルは『The Bounty Hunters』、イタリアでは役名が“インディオ・ブラック”に変更されました。
 主役が突然変わった違和感を消すため、物語とキャラクター設定も微妙に変えられました。まず舞台が19世紀後半の米南西部から、1867年のオーストリア/ハンガリー帝国圧制下のメキシコに移され、主人公は孤児院に賞金を寄付する正義のガンマンとして位置づけられます。愛用の武器も銃身を選択できるウインチェスターから、カセット弾倉のオリジナル連発銃に持ち替えられました。衣装も変化しましたよ。黒づくめなのは同じですが、端正なスーツ姿からフリンジの付いた革製のワイルドなジャケットに変更。そして主人公の役名は、(アメリカ以外では)“インディオ・ブラック”と呼ばれることになるのです。“インディオ・ブラック”は大変珍しい、シューベルトも弾けるガンマンです。ユル・ブリンナーは確か、『ガンファイトへの招待』でもピアノを弾いていましたな。「俺は銃を撃ちまくるだけのランキーやバンビーノ(注:『さすらいの一匹狼』『風来坊』の主人公。共に識字率低し)とは違うんだぞ」というわけです。新たに追加された孤児院との関係もそうですが、彼独特のナルシスティックな役作りが垣間見えます。

 1915(or20)年サハリン生まれ。エキゾチックな容貌は一説によるとモンゴル人であった父親の影響とも言われております。ジプシーだったと噂される母親にはロシア人の血も混じっていたのかもしれません。『王様とタワリシチ』…なんちって。出生は謎に包まれ、10代はサーカスの曲芸師で食ってました。下手すると、セプテンブレの役が回ってたかも(嘘)。SFから歴史劇まで数多くの映画に出演、晩年は舞台に専念します。カセットガンの葉巻がいけなかったのでしょうか、1985年に肺癌で死去。亡くなる直前に喫煙抑止のCMに登場し、肺癌の恐ろしさをPRしたそうです。最後まで自分を演出する毅然とした生き方が、インディオ・ブラックのキャラクターと重なります。 合掌。
 ところで、主役を奪われたリー・ヴァン・クリーフですが、その後どうしたのでしょう? タルビー師匠(注:『怒りの荒野』に出てくる拳銃の先生)の教えに忠実に、“ガンマンの心得”第9条を実践したらしいですよ。「挑戦されたら受けて立て」の言葉通り、『荒野の七人/真昼の決闘』でユル・ブリンナーの当たり役を奪って、演じ返したのです。

(蔵臼金助)

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