『ガンマン無頼/地獄人別帖』 (Togetter「蔵臼金助氏による『ガンマン無頼/地獄人別帖』コラム再録ツイートまとめ」)


『復讐は冷めた料理』

「復讐というものは、冷めてから食べると一番美味しいご馳走のようなものである」(「セルジオ・レオーネ」クリストファー・フレイリング著 フィルムアート社刊)

 つまり、報復する際はすぐには手をつけず、心の中で繰り返し宿敵を倒す場面を反芻し、時間をおいてから実行に移す方が望ましい…ということです。伊原題を“復讐とは冷めた料理”、英題を“復讐街道(VENGEANCE TRAIL)”と名付けられた本作が、『ガンマン無頼/地獄人別帖』の邦題で公開されたのは、1973年3月のことでした。『荒野の七人/真昼の決闘』と二本立てで観たら、まるでオールナイト四本立てを満喫したかの様な、お得感を感じさせるタイトルです。
 1973年と言えば、既にマカロニ・ブームも落日の彼方。『風来坊』のヒットにより、コメディ・タッチの作品が主流となっていた頃であります。トリニティやアレルヤ、ノーボディ、オニオンらがイタリア流の泥臭いギャグを繰り広げている最中に、この正統派西部劇のリアリズムとマカロニ・ウエスタン独特の雰囲気が融合した、知られざる傑作は封切られました。

 物語は、少年の視線である父親の背中の大写しから始まります。辺境の地で開拓者一家がインディアンに惨殺され、ただ一人生き残った少年ジェレマイアはその後、寡黙な殺し屋に成長。インディアンと見れば、次々に襲っては頭皮を剥ぎ続ける復讐の鬼と化します。ある日、インディアン娘を殺し損ねたことをきっかけに、彼は意外な事実を聞かされ、真の敵を知ることになるのですが…。
 まるでドキュメンタリーを観せられているかの様な、対インディアン戦の迫力。ニューシネマの影響を受けた独特の間合いと、個性的で奇妙なモンタージュ。これがデビューになる監督ウィリアム・レッドフォードとは、後に『鉄人長官』『殺しのギャンブル』で高い評価を受ける知性派パスクァーレ・スクイティエリの変名です。そして、暗い瞳に復讐の炎を宿した主人公を演ずるレオナード・マンの魅力、哀愁を帯びたピエロ・ウミリアーニの音楽もまた忘れられません。敵役も、『殺しが静かにやって来る』『群盗荒野を裂く』の怪優クラウス・キンスキー、別名ショーン・トッドを名乗り、『待つなジャンゴ 引き金を引け』等の主演作品もあるアイヴァン・ラシモフと充実しています。
 マカロニ・ウエスタンで最も取り上げられることの多いテーマ、“復讐”。それを正面から捉えながらも、今までとは全く異なったアプローチで鋭く描き出したレッドフォード=スクイティエリ監督の非凡な演出力には、今もなお驚かされます。憎しみが憎しみを生む…復讐の連鎖が何の解決にもならない事を、我々はベトナム戦争終結直前に作られた本作から学びますが、それから40年後。世の中がまったく変わっていないことにも、改めて気付かされます。己の過ちを悔い、復讐を遂げたジェレマイアに最後に残されたもの…その虚しさを思う時、本作は時代を超え、アクション映画の枠を越え、いぶし銀の様に輝き始めるのです。


(蔵臼金助)

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