『ガンマン無頼』 (Togetter「蔵臼金助氏による『ガンマン無頼』コラム再録ツイートまとめ」)

 ガンマン&用心棒の皆さん、こんばんハイ・プレインズ・ドリフター♪ 今宵は『ガンマン無頼』とウインチェスターM94についてのコラム再掲です。

『保安官(シェリフ)殿、ご用心』

 “正統派”西部劇の主人公が「フロンティア・スピリット」や「正義感」を拠り所にしているのとは異なり、マカロニ・ウエスタンの主人公は組織や国家に依存せず、独自の価値観を持っております。作り手の中にレッド・パージでハリウッドを追われた反体制派がいたりしたのですから、作風がそうなるのは当然のことかもしれません。従って、マカロニに保安官が登場すると大抵が酷い目に遭います。『荒野の処刑』の哀れなおっさんがいい例ですが、『殺し屋がやって来た』『無宿のプロガンマン』では開幕早々、保安官が殺され、主人公がなりすますところから物語が始まりました。『荒野の一つ星』ではジェンマと殴り合いの末、豚小屋で叩きのめされます。『夕陽のガンマン』でも、イーストウッドからバッジを取り上げられ、捨てられてしまいました。バッジの描き方も決して“胸に輝く銀の星”ではありません。『星空の用心棒』では悪徳保安官の首に刺さる凶器として使われ、前述の『無宿のプロガンマン』においては、単に撃ち易い標的として描かれました。保安官はバッジ越しに心臓をブチ抜かれるのです。
 ところが、『ガンマン無頼』の保安官バート(フランコ・ネロ)は違いますよ。冒頭から賞金稼ぎの手柄を横取るわ、恨みを買って闇討ちに遭うとあっさり返り討ちにするわ、弟のジムが憧れるだけのことはあります。タフで格好良く、ハードボイルドな保安官なんです。しかし物語が始まるやいなや、彼は突然バッジを返上。個人的怨恨を晴らすためにメキシコへ旅立ってしまいます。おいおい、公務はどうした? 国境を越えての武装蜂起に手を貸す辺りも昨今の中東情勢での合衆国の介入を連想させますが、ネロの鮮やかなファニングや流れる様なGUNプレイが素晴らしいので、深く考えるのは止めときましょう。
 フランコ・ネロの父親は、元カラビニエーレ(Carabiniere:国防省警察官、語源はCarabina:カービン銃に起因)でした。父親から直々に仕込まれたせいで、ネロはGUNさばきが巧みだったんですね。拳銃ばかりではなくライフルの扱い方も見事ですよ。岩山で賞金稼ぎと撃ち合ったライフル。レバーを起こす動作が派手ですが、それはストロークが長い、ウインチェスターM1894が使われてるためです。この銃は初期のマカロニによく登場します。現在でも生産の続く、ウインチェスター・レバー・アクション・ライフルの完成型となったM1894は、欧州でも入手が容易だったのでしょう。
 例えば、『荒野の用心棒』。マリソルとバクスター家の息子の捕虜交換シーンに注目して下さい。ここでラモンはライフルのレバーを操作しますが、フレーム下部が大きくスライドする事から、M1894である事が判ります。M1894は口径.30-30と言う強力な専用ライフル弾を薬室に装填させるため、レバーのストロークを長くしてあるのです。“銃箱の隅”を少々つついてみましょう。装填シーンのUPで、ラモンの銃はM1892に変わるんです。ライフル弾は込め難いですからね。決闘の時だけ拳銃弾を込められるM1892にバトン・タッチさせたのだと思います。
 今でもアントニオ・ガルシア・アブリルのサウンド・トラックを聞くと、ぎらつく太陽の下、メキシコへ向かう兄弟の物語を思い返し、私は初めて観た時の感動を蘇らせる事が出来ます。そんな時、手元にM1894があればなあ…と思うのですが、残念なことにモデルガン化されておりません。実銃は現在でも発売中ですが、マカロニ・ウエスタンを鑑賞しながら実銃を抱えていると…たぶん、保安官(警察官)に捕まってしまいますな。


(蔵臼金助)

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