『復讐のガンマン』 (Togetter「蔵臼金助氏による『復讐のガンマン』コラム再録ツイートまとめ」)


『砂漠の中心で、アディオスと叫ぶ』

 ジャッロやモンド映画と同じく、欧米でスパゲッティ・ウエスタンが“ユーロ・トラッシュ”と言うカテゴリーに分類されることを教えてくれたのは、屑山屑男氏(仮名)です。彼は私同様、多くの見捨てられた作品のリサイクル運動に従事しているのでありますが、資源ゴミ映画発掘の過程で私たちは、“ユーロ・トラッシュ”が2種類に分別可能である事を再確認いたしました。その一つは、大多数を占める「燃えないゴミ」。そして、もう一つは、本作『復讐のガンマン』もその中に含まれる、「燃えるゴミ」であります。前半のじっくりと腰を据えた登場人物の描写から一転、物語後半の“人間狩り”より続く怒濤のクライマックス、つるべうちの決闘尽くしからカタルシス全開の感動のエンディングまで、ソリーマ監督の重厚な演出は観客の心を鷲掴みにして灼熱の荒野へと放り込み、ぼうぼうと燃え上がらせてくれるのです。
 伊原題『LA RESA DEI CONTI(報復)』、米公開題名『THE BIG GUNDOWN(大いなる決闘)』を持つ本作『復讐のガンマン』は、アメリカのスパゲティ・ウエスタン・ファンサイトの人気投票1位を獲得した傑作で、セルジオ・ソリーマが最初に演出した西部劇に当たります。彼は男と男の対決、追う者追われる者の感情の相克と葛藤を描くのが巧い監督です。『アルジェの戦い』『戒厳令』などで知られる骨太の脚本家フランコ・ソリナスの書いたシナリオを元に(当初そのオリジナル脚本は、サルディニアの腐敗した警察で働く若い警官が、殺人の嫌疑をかけられた初老の農夫を追い詰めていくものでした)、『ウエスタン』『夕陽のギャングたち』の名脚本家セルジオ・ドナーティとソリーマらが脚色しました。本作で感動した方には、同じ構造を持ちさらに心理描写が深まった異色作『血斗のジャンゴ』、本作のクチーロが主人公のスピンオフ・ストーリー『続・復讐のガンマン 〜走れ、男、走れ!〜』もお薦めします。

 非情でプロフェッショナル、眼光鋭い手練れの賞金稼ぎコーベットを演じるのは、『夕陽のガンマン』出演以降、一際貫禄のついたリー・ヴァン・クリーフ(雇い主を裏切るのでプロではありませんね。さらには追い詰めた標的を無償で手助けしてしまうのですから、これじゃあ『福祉のガンマン』?)。しかし実質的な主役は、トーマス・ミリアン演じる若者クチーロの方でしょう。とにかく彼は走ります。走る走る。藪をかき分け、岩陰に身を隠し、水溜まりで喉を潤しながら荒野を疾走します。その姿はマルセイユを駆けずり回ったポパイ刑事より美しく、ベルリンの街中を走ったローラよりも気高く、最後の、コーベットとの友情を胸にしまい、太陽に向かって砂漠を駆け抜けて行く姿は、観る者全ての心を魅了し続けます。
 大戦中の戦闘経験者であるソリーマ監督は武器の描写やアクションにも拘りを見せましたので、米題に偽りのない「決闘三連発」に沿って順番に紹介していきましょう。
 最初の“クチーロVSブロックストンJr.”では、『荒野の七人』のジェームズ・コバーンを思わせる[ナイフ対拳銃]の決闘シーンが見られます。実はミリアンは銃の扱いが得意ではありませんでした。それでナイフを使ったのだと彼はインタビューで答えてます。手を差し出すクチーロにコーベットはナイフを手渡しせず地面に刺しますが、何故なのでしょう? これは、彼が決闘の立会人としての公平性を顕示するために、敢えてそうしたのだと思います。
 次の“コーベットVSシュレンベルク男爵”は、[シングル・アクション対ダブル・アクション]の撃ち合いです。コーベットは当初、『夕陽のガンマン』のモーティマー大佐と同じ左腰から銃を抜くクロスドロウ用ガンベルトとショルダーホルスターに、それぞれ銃身長の異なるコルトを忍ばせていました。決闘では、無造作にコルトS.A.A.をベルトにはさんでます。対するは、決闘で23人を倒したオーストリアの男爵。モノクルをかけマントを翻し、黒の革手袋を着用、スケルトンホルスターに収まったコンチネンタル・ダブル・アクション・リボルバーを連射します。
 最後の“コーベットwithクチーロVSブロックストン”は[長距離射程ライフル対決]です。コーベットはニッケルめっきのライトニング・スライドアクション・ライフルを用いますが、ブロックストンが使うのは、これは珍しい、ウィリアム・エヴァンスのリピーティング・カービンです。GUNマニアは銃のディティールを観察するのに忙しく、決闘の勝敗どころではありません。
 誰もが感動する名作は心の中を素通りして行くのに、このレオーネ作品以外のイタリア製西部劇の中で類を見ないスケール感を持つ本作は、私の魂の中に焼き付いて離れません。最初に観てから45年以上の月日が経ちましたが、ラストシーンの砂漠の美しさを私は一生忘れることはないでしょう。


(蔵臼金助)

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