『暁の用心棒』 (Togetter「蔵臼金助氏による『暁の用心棒』コラム再録ツイートまとめ」)


『ショットガンを捨てよ、町を出よう』

 東宝東和が“用心棒”シリーズ第五弾として1966年に公開したのが、『暁の用心棒』です。トニー・アンソニー主演“ストレンジャー”シリーズの1作目であり、『盲目ガンマン』『Get Mean』『荒野の復讐』などのアーキタイプとなった傑作でもあります。元型とは言え、後に展開されるトニー・アンソニー作品の魅力が全て詰まっているんですよ。2作目、3作目ともなると演技に余裕が出てきたのか、ニヤニヤ笑いに拍車がかかってハードボイルドな雰囲気を台無しにしてくれますが、この作品では初出演で緊張気味だったのか、トニー・アンソニーはおおいに格好良い姿を披露しています。
 国境に近い町に流れ着いた一匹狼のガンマン、対立する二つの勢力、機関銃による皆殺し、それぞれが得意とする得物を使ったクライマックスの果たし合い…『荒野の用心棒』の設定を上手に真似ながら、ドキュメンタリー出身のヴァンス・ルイス監督は独特のタッチでオリジナリティを発揮してます。それは、ポンチョならぬサラッペを身に巻き付け、一撃必殺のスラッグ弾を込めた散弾銃で山賊の機関銃に対抗する“よそ者”のバイタリティ溢れるキャラの活写であり、殆ど台詞を排し、無言で進行するストーリーであったりしますが、全篇に満ち溢れているマカロニの魅力ともいうべき、無数の“格好良さ”が、本作を際だたせているんです。
 アギラの手下を一人倒すごとに流れる、「“よそ者”のテーマ」。暗闇の中でのマズル・フラッシュしか見えない銃撃戦。山賊の手下どもをやっつける数々の殺しのテクニック。少しずつゴーストタウンの夜が明け、明るくなった時に残される首領との一騎打ち。決闘の際の散弾銃を操る鮮やかな手際と、振り向きざま発砲するスタイリッシュなアクション……シチュエーションやストーリーが『荒野の用心棒』に似ながら同じ印象にならないのは、演出に工夫があり、スタッフやキャストに熱意が感じられるからです。低予算、限られたスケジュールの中で、最大限の工夫と努力をそそぎ込んだ、イタリア人スタッフ&キャストの意地が伝わって来るからなんです。

【ソウド・オフ・ショットガン】
 散弾銃(ショットガン)とはその名の通り、SHOT(散弾)を撃つための武器です。轟音と共に発射された複数の粒弾は、銃口を出ると一気に拡散、広範囲の目標に命中します。特に“Sawed-off GUN”と呼ばれる、ノコギリで銃身・銃床を切断、携帯性を良くした散弾銃は、近接戦において抜群の破壊力を持ち、相手へ恐怖心を植え付け、戦闘意欲を喪失させるにはもってこいの武器となりました。
 誤解し易いのですが、銃身を切断する事によって威力が増す訳ではないのです。むしろ、ある程度の銃身長がないと燃焼する火薬のガス圧を有効に活かせず、弾丸を銃身内部で加速させることが出来ません。では、何が恐れられているのかと言うと、散弾のパターンが広範囲にばらまかれる、そのイメージなのでしょう。近距離で撃たれた場合、広がった散弾をほぼ確実に浴びることになる訳で、それは誰だって想像したくありません。
 だから、『トゥームストーン』の河を挟んだ銃撃戦において、まともに散弾を食らったカーリー・ビルの死に様に対し、ワイアット・アープらは「ひどい事を…」と敵方に言われてしまうのです。ショットガン、特にソウド・オフ・ガンは正々堂々とした武器ではない、と言う意味合いが込められているんですね。
 第一次世界大戦の塹壕戦においても、“トレンチガン”と呼ばれるスライド・アクション・リピーターの散弾銃を持った兵士は、敵に捕まると酷い目に遭わされたと聞きます。『荒野の七人』の冒頭、スティーブ・マックィーンがシェルを銃に込める際、耳元で振って散弾の触れ合う音を確かめます。散弾銃をこれから使用するのだと言う意志が伝わり、印象深い場面となりました。『OK牧場の決闘』でも、カーク・ダグラスの持つ散弾銃に気付いたクラントン側の一人は、「ショットガン!」と仲間に警告を発します。それだけ近距離では威力があり、恐れられていた武器なんです。
 駅馬車の護衛が持つコーチガン、保安官が暴動鎮圧用に用いるライアットガンとは別に、ソウド・オフ・ガンには“アンダーグラウンドのイリーガルな銃”“闇討ち用火器”のイメージがあります。ドク・ホリディが実際にOKコラルへ持ち込んだと言われる有鶏頭の散弾銃、あれこそがソウド・オフ・ガンであり、ドク・ホリディがその様な武器を所持していた事に、彼のキャラクターがあらわれているなと言う気がします。
 正々堂々とした武器ではない印象が強いせいか、西部劇ではあまり主人公が愛用しません。マカロニ・ウエスタンにおいてでさえ、2〜3例しか実例がないのです。伝染病の蔓延する黙示録的な世界…『マッド・マックス』の元ネタと言われる『ケオマ・ザ・リベンジャー』で、フランコ・ネロはソウド・オフ・ショットガンを片手でハンドガンの様に撃ちまくりました。撃たれた敵がスローモーションで吹っ飛ぶさまは、迫力いっぱいです。『シルバー・サドル/新・復讐の用心棒』では“二連発のスネーク”と異名を取る賞金稼ぎが愛用、ジュリアーノ・ジェンマの相棒を務めます。『Il momento di uccidere 』でも、ジョージ・ヒルトンのパートナーであるウォルター・バーンズが、強力な武器に物を言わせていました。この様にソウドオフ・ガンは頼りになる相棒が持つと非常に心強く、その極めつけが、『アパルーサの決闘』のヒッチ(ヴィゴ・モーテンセン)が常に抱える口径8番の散弾銃です。象撃ち用ダブルライフルと見紛うばかりの大口径散弾銃を突きつけられたら、どんな手練れのガンマンでも戦意を失いますよね。

 『暁の用心棒』最大の見せ場は、最後の決闘で使われる、“よそ者”の散弾銃 対 アギラの機関銃対決です。“よそ者”は、古めかしいアンダー・レバー・アクションの有鶏頭サイド・バイ・サイド・ショットガンに、バカでかい鉛の弾頭の付いた単発弾を装填して、山賊の機関銃に立ち向かいます。それぞれ弾の尽きた仇同士は、“よそ者”の合図と共に得物に弾丸を装填、一瞬の間に勝負が決まる一騎打ちとなります。通常の散弾銃ですと装填のプロセスが短いため、シュワルツローゼの装填時間に合わせて、監督はアンダー・レバーの散弾銃を持たせたのかもしれません。トリガー・ガードに被さる様に付けられたアンダー・レバーの動きが、映像的に目立つという利点もあります。
 見事にアギラと山賊一味を仕留めた“よそ者”でしたが、高らかに鳴り響く“よそ者”のテーマと共に、彼はショットガンを投げ捨て、颯爽と町を去って行きました。惜しいですねえ。ショットガンはたぶん未亡人が大切にしていた夫の形見でしょうに、無造作に投げ捨てるところで“よそ者”の好感度ポイント半減です。未亡人にきちんと銃を返却して町を去って行ったら、この作品もより好感度が増し、『続・暁の用心棒/ストレンジャー・リターンズ』『新・暁の用心棒/サイレント・ストレンジャー』と、日本でも続編が公開されたことでしょう。


(蔵臼金助)

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