『増える賞金、死体の山』 (Togetter「蔵臼金助氏による『増える賞金、死体の山』コラム再録ツイートまとめ」)

『アルメリアの荒野における、ミシンとコウモリ傘の出会い』

 マカロニ・ウエスタンの多くはスペインのアルメリア地方でロケされました。スペインと言えば、ダリを生んだシュル・レアリスムのふるさと。日常性あふれる傘やミシンと言ったオブジェを非日常的な武器に変えてしまうマカロニのセンスにも、シュルレアリスムを育んだスペインの精神を感じます。“日常と非日常との出会い”と言えば、取り合わせのミス・マッチ感が面白がられるのか、西部劇には時々日傘をさしたガンマンが現れることがあります。マカロニでは、『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』、『Un Uomo, Un Cavallo, Una Pistola』、『C'e Sartana , Vendi La Pistola E Comprati La Bara』、『I Due Figli Dei Trinita』…。マカロニ以外では、『エル・トポ』にも。『増える賞金、死体の山』で颯爽と登場したイスラム教徒の賞金稼ぎコーランも、背中に異様に長いライフルを担ぎ、日傘をさしながら現れました。この傘も、武器だったんです。

【GUNブレラ】
 マカロニで活躍した作曲家アレッサンドローニは、主に「へいやっ!」のかけ声に手腕をふるうと言われますが、「スペインでは雨は主に平野に降る」とも言われております。…と言うことは、細かい話で恐縮ですが、アルメリアの山岳部を闊歩するこの賞金稼ぎの持つ傘は“GUNブレラ”(雨傘)ではなく、“9oパラソル”(日傘)の方がネーミングとしてはぴったりなのかもしれません。さしてる時は普通の傘に見えますが、窮地に陥った際はいきなり敵に向け、全自動で掃射します。1890年代当時、傘のスペースに全自動火器を隠せたら、何も賞金稼ぎをしなくてもそのパテントで食っていけるのではないかと思いました。石突き部分が火を噴くのを見ると、私の頭の中では毎回、“センス・オブ・ワンダー”と言う単語が浮かんできます。
 接近戦用にGUNブレラと7 1/2インチのS.A.A.を使い分けるプロフェッショナルなコーランですが、背中には長距離狙撃用の長い長い単発ライフルを背負っています。元折れ式のパーカッション・ライフルに長い銃身を被せて作った映画専用のプロップかと思われますが、これにまた異様に長い薬莢を装填、長々射程距離から狙撃します。着弾先は木っ端微塵。何と炸裂弾頭になっているんですねえ。マカロニは爆発だぁっ!

 “GUNブレラ”なぞに驚いちゃいけません。冷蔵庫にだってインターネットがつく時代です。パイプオルガンが人を撃ってもいいじゃないか…と言う岡本太郎的発想秘密兵器が、イタリア製西部劇には多数登場いたします。知りたいですか?


【GUN楽器】
 イタリア人は楽器に銃を隠すのが好きです。『西部悪人伝』のバンジョーがいい例です。続編の『西部決闘史』では、太鼓にズラリとS.A.A.を仕込んでました。太鼓を転がしながら、次々にコルトを連射するのです(殆ど意味無し)。『リンゴ・キッド』ではメキシコ人がギターをくり抜き、コルトを隠しました(ポンチョの下に隠した方が早いと思う)。
 極めつけは『サルタナがやって来る 〜虐殺の一匹狼〜』のクライマックスに登場した“皆殺しオルGUN”でしょう。方向転換が出来ないので後ろから襲われたらおだぶつのこの武器を、クールなサルタナ氏は突っ立ったまま平然と“演掃”(遠方から彼を狙撃しようなんて気の利いたガンマンは一人も現れません)、敵のガンマンたちは撃たれるのを順番待ちにして、為す術もなくバタバタ倒れていきます。見た目はパイプオルガンですが、それぞれのパイプから弾や砲弾が出ます。いったい誰が、何の目的でこんなものを作ったのでしょう? 間違ってバチカンに納品されたら大変です。どう狙いをつけてるのか、装弾をどうしてるのか、全てが謎のままこの武器は活躍、サルタナは無敵の勝利を治めます。

【ミシンGUN】
 アイザック・メリット・シンガーが、新型ロック・ステッチ・ミシンのパテントを取得したのは1851年のことでした。それより20年前に、万年筆や安全ピンの発明者として知られるウォルター・ハントが、ミシンの原理を開発してます。そのハントこそが、ウインチェスター・ライフルの原型となった、リングレバー・アクション連発銃の設計者でもあるのです。また第二次大戦中、シンガー社はコルト社の設計図に基づき、M1911A1を製造してました。元々ミシンと銃器は相性が良いのでしょう。とは言え、この『荒野の無頼漢』に出てきた様なコンパクトな火器が当時作られたかどうかは定かでありません。見た目はミシンです。たぶん、中味もミシンです。しかし、弾丸が出て敵が倒れます。数多いマカロニ“脱力系武器”の中でも最右翼、最も知名度の高いのがこれでしょう。ジョージ・ヒルトン扮するアレルヤが使う必殺兵器(観た者の息の根を止めると言う意味で)です。ミシン・ハンドルを回すと、糸巻き部分からバリバリと弾が出て、あっと言う間の皆殺しになるのです。映画の内容、他のシーンの印象を全て白紙にしてしまう程のインパクトがありましたよ。

【首掛け式マシンガン】
 『怒りの100連発』に出てくる小型兵器です。このTV放映された未公開作の原題は、『THOMPSON1880』と言います。トミーガンの発明者の若き姿と言うところがいかにもマカロニらしくて良いですねえ。ラスト近くに現れたのポータブルな武器は大型のクラシックカメラの様な形状をしてますが、勿論出てくるのは弾丸で、例の如くフルオートでの皆殺し。開いた口が塞がりません。放映時に中学生だった私でさえ、リアクションに困りました。トラッシュ・ムービーとしてもっと評価されるべき作品でしょう。

【ジャンゴ・マシンガン】
 勘違いされ易いのですが、『続 荒野の用心棒』でジャンゴが棺桶から取り出した機関銃は、ガトリングガンではありません。正確に言うと、「マキシム機関銃に似た、何か」です。『ランボー』に先駆けること16年以上前、フランコ・ネロが棺桶から取り出して腰だめで撃った機関銃は、見た感じモンティニ・ミトライユーズか、ヴァンデンベルグ・ボレー・ガンに似てます。『皆殺しのジャンゴ』でテレンス・ヒルが目を剥いて撃ってた機関砲、『荒野の用心棒』で騎兵隊を皆殺しにしたマシンガン、『ガンマン大連合』でヨドが撃ちまくった機関銃…いずれも同じ物です。
 構造的には、長方形の箱に円筒をくっつけ、黒く塗り、横にダミーの弾帯をぶら下げ、銃口からはアセチレンガスによる銃口炎が噴き出すだけの物です。やや蔑称的に“ジャンゴ・マシンガン”等と呼ばれたりもしますが、ひょっとしたら未知の給弾システムを備えた究極の兵器なのかもしれません。フランコ・ネロは、『ジャンゴ 灼熱の戦場』でも懲りずにリサイクルして使っていました。きっと物持ちが良いんでしょう。
 マカロニにおいては、“最後の切り札の皆殺し銃”と言う記号ですので、銃口が向いた側にいるガンマンたちは、無条件に「うおぉ〜」と叫びながら倒れなければいけません。マカロニの巨匠セルジオ・レオーネでさえ、『荒野の用心棒』ではこの“ジャンゴ・マシンガン”と五十歩百歩の荒唐無稽なプロップを登場させていました。その後、『暁の用心棒』できちんと装填・排莢の出来る実銃のシュワルツローゼ機関銃が登場、レオーネは悔しさのあまり、1ドル銀貨をくわえて歯ぎしりしたと言われています。


(蔵臼金助)

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