『怒りの荒野』 (Togetter「蔵臼金助氏による『怒りの荒野』コラム再録ツイートまとめ」)

  DVD用に以前執筆した『怒りの荒野』原稿を再掲します。半年前にも一度twitter上に載せましたが、おさらい♪

『拳銃模倣地帯』

 本作はかつてジョン・ウーがリメイクする噂があったようですが、タルビー役をスコット・グレン、スコット役にジュード・ロウなどはいかがでしょう? ついでに、かねがねマカロニ顔だと思っていた、ジョージ・クルーニー主演の『黄金無頼』なんかも観てみたいです。相棒はマーク・ウォルバーグとアントニオ・バンデラス。それから、ベニチオ・デル・トロ主演の『ガンクレイジー』はどうですか? バウンティキラー役は、存在感の無さを買ってビル・プルマンが良いですね。『王様と私』がリメイクされたのに、『大西部無頼列伝』が再映画化されないのは納得がいきません。チョウ・ユンファには、“インディオ・ブラック”もやって貰いましょう。『マトリックス』風特撮技術を駆使した『ガンマン無頼』のタイトル、ワイヤーワークばりばりでアクション場面を撮り直した『真昼の用心棒』も格好良いだろうなあ。レオナルド・ディカプリオの『荒野の墓標』、ヴィゴ・モーテンセンの『豹/ジャガー』、ジョニー・デップの『情無用のジャンゴ』もリメイクを希望…あぁ、私の目が私の体を離れて、不思議な世界を彷徨ってしまいました。
 夢見るのはここ迄にして、今から取り上げるのは43年前に作られた、銃器研究家にとって見所満載のイタリア製西部劇の傑作です。『夕陽のガンマン』でセルジオ・レオーネの助監督を務めたトニーノ・ヴァレリは、師匠と同じく、GUNアクションの見せ場を作るのが上手な監督でした。彼はスコット同様、レオーネ師匠からひとつひとつ演出方法を教わったのかもしれません。
 銃器演出の教訓 その1:「銃器に個性を持たせろ」、その2:「俳優に撃たせた弾の数は覚えておけ」、その3:「最後の場面でとっておきの銃を出せ」…。
 では、銃と標的の間に立たないようにして、観るべき所を順番に観ていきましょう。

【銃器店にて】
 拳銃の師匠に連れられ、銃器店のショーケースを覗くスコット。いいですねえ。西部劇には、銃器店で主人公がこれから愛用する銃を物色するシーンが少なからず出てきます。お菓子の家に迷い込んだヘンゼルとグレーテルと言うか、鶏小屋に忍び込んだ狐と言うか、銃器研究家にとっては夢の様なシーンであります。
 『続・夕陽のガンマン』でテュコは、埃を被ったアンティークなガーランド・リボルバー、ペッパーボックス等を次々に手にとっては不満足な表情をあらわにし、最終的にピカピカの51ネービーを選択しました。三挺のネービーの銃身、シリンダー、撃鉄をチェックした後、それぞれ精度の高いパーツのみを使って満足のいく一挺を組み上げるという、マニアックな描写が続きます。『LE DUE FACCE DEL DOLLARO(ドルの両面)』でも、主人公は51ネービーを選びますが、グリップ及びメイン・フレームが真鍮製のカートリッジ・コンバージョンでした。何挺かのS.A.A.を試し撃ちした後51ネービーを選ぶのですから、監督はよほどこの銃が好きなのでしょう。駅馬車の中で組み立てるシーンも出てきます。『野獣暁に死す』では、主人公が7.5in.のS.A.A.に決めた後、店の外で待ち伏せ中のガンマン二人を即座に射殺。観ていた店主が、「またこの銃を仕入れなくちゃ…」と呟くのが素敵です。壁面にディスプレイされたデリンジャーやピースメーカー、木製銃床をつけたM1861ネービーに、レミントンのリボルビング・カービンも見逃せません。

 本作では、5.5in.銃身のS.A.A.が三挺、7.5in.銃身のが一挺、テーブルに並べられ、タルビーは迷う事なく7.5in.のコルトを選択。スコットに買い与えました。タルビーの銃は、照星を削り落とした5.5in.銃身のS.A.A.です。決闘においては僅かな銃身長の差が致命的な結果につながりますが、この時既に、タルビーはスコットとの対決を予測し、意図的に長い銃身のコルトを買い与えたのです。

【ドク・ホリディの拳銃】
 元保安官のマーフからスコットに託された拳銃が、ドク・ホリディが使ったと言われる、5.5in.銃身のS.A.A.です。タルビーのものと同じく照星が削り落とされ、連射し易いようハンマー・トップを低くし、ナーリング(撃鉄の指かけ部分に刻まれる滑り止め)を無くしたカスタム・ハンマーが装着されています。そして、引き金はトリガー・ガードに固定されてるんですねえ。この銃は引き金を引かなくとも撃鉄を弾くだけで弾が出るんです。スコットは左手で銃身を握る独特の撃ち方で勝利をおさめますが、あんな事して火傷しないのでしょうか? シリンダー・ギャップから漏れる火薬のガスで、たぶんかなり熱いですよ。また、ミスッた場合は自分の手を撃ち抜きそうで怖いです。凝った銃を出した割に、撃ち方に説得力がありません。皆さんも決闘する際は危険ですので、真似しないようにしましょう。

 銃器そのものをフェティッシュに描写するGUNマニアのレオーネとは異なり、トニーノ・ヴァレリは、銃自体にはそれほど興味が無く、銃器を単なる小道具として捉え、それ以上の描き方をすることはありませんでした。そのバランスの良さが画面に効果的に出るケースと、凡庸で印象の薄い演出に終わってしまうケースがありますが、本作における名場面の数々は、ヴァレリの最も成功した演出例と言えるでしょう。その後、彼は『怒りの用心棒』『要塞攻防戦』でパッとしない銃器描写をした後、師匠セルジオ・レオーネのプロデュースのもと、『ミスター・ノーボディ』で本作を超える多くの名シーンを生み出しました。師匠の模倣の時期を経て、独自の演出方法を確立したのだと思います。
 最後の教訓:「GUNアクションは、凝り始めると止まらない」。


(蔵臼金助)

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