『荒野の1ドル銀貨』 (Togetter「蔵臼金助氏による『荒野の1ドル銀貨』コラム再録ツイートまとめ」)

 以前DVD用のリーフレットに執筆して、その後拙著にも載せた、『荒野の1ドル銀貨』のコラムをお送りします♪

『急いてはコルトで仕損じる』

 次々に発売されるマカロニDVD…マニアにはたまらんですな。やっと手に入れたパッケージの、セロファンを剥がす手つきももどかしい事でしょう。私もサントラ聞きたさのあまり、CDの剥がし難い封印シールに苛つく時があります。堪え性の無いコレクターはついカッとなって、ケースを銃で撃ち抜いたり、ダイナマイトで吹き飛ばしたりしてしまうそうですよ。私の場合は予めドリルで穴を空けてから、スポイトで酸をたらし…。
 『荒野の1ドル銀貨』の敵役マッコリーも、最後に焦らず、至近距離から冷静にジェンマ扮するゲーリーを狙い撃ちしていれば、この映画も『殺しが静かにやって来る』に負けず劣らず、意外なラストのカルトムービーとして、観客の記憶に残ったかもしれません。しかし、本作が作られたのは、まだまだマカロニ・ブームが始まったばかりの1965年。そんなラディカルなエンディングなんて考えられませんでした。今でこそ、イギリスの監督がオーストラリア人俳優を主役に使い、アメリカ資本で撮った、“スペイン人”と呼ばれるローマ人拳闘士の話に、オーストリア人が主題歌を歌って公開される自由な世の中となりましたが、'60年代当時はナショナリズムに裏打ちされたそれはそれは厳しい雰囲気がありまして、イタリア人が西部劇を撮ろうものならバッシングの嵐。セルジオ・レオーネですらアメリカ人を装ったボブ・ロバートソンなる変名を用い、ジュリアーノ・ジェンマもデビュー当時はモンゴメリー・ウッドと名乗ってました。当時のファンは「マカロニ・ウエスタンが好き」と言っただけで、真夏の路上で腐りかけたトマトを見る様な目つきで睨まれたものです。
 1965年。イタリア製西部劇は量産体制に入り、チネチッタのオープン・セットは、それ迄の拳闘士や海賊に変わってガンマンや用心棒が闊歩する、正に“ローマは一日にしてならず者”と言った状況へと一変します。衣装や小道具も主役から脇役に至るまで出演者全てにそれらしき物が供給可能となり、銃器研究者にとっては逆に、この頃の作品はコルトS.A.A.とウインチェスターM66、M92しか登場しない、悲しむべき“冬の時代”となったのです。本作もS.A.A.のレプリカしか登場しませんよ。南北戦争が終結したのは1865年。捕虜収容所から解放されたオハラ兄弟に1873年に登場するS.A.A.が返却されるのは間違いと言う事になりますが、目くじらを立ててはいけません。監督とジェンマは限られた予算の中で、抜群に面白いアイデアを考案したのですから。複製コルトしか登場しないのに銃器研究家の間で本作が後々まで語り継がれてる理由は、1ドル銀貨の絶妙な使い方と共に、このアイデアが活きた見事なラストのおかげなんです。


 今回のテーマは、コルトS.A.A.の銃身別バリエーションについてです。まずは、基本の3パターンから…。

【7 1/2インチ銃身 通称:キャバルリー(騎兵)モデル】
 米陸軍サイドアームとして採用されたことにより、この銃は“アーミー”の名が冠されたのです。その時の銃身が7 1/2インチ(約190o)だったので、この長さがスタンダードとなりました。“秩序の維持”“法の執行”とのイメージが強いのでしょう、正統派西部劇では、騎兵隊や保安官によって使用される事が多いです。中でもきらきらと銀色に輝くニッケル鍍金のキャバルリー・モデルは、正義の味方に愛用されました。『シェーン』のアラン・ラッドや、『ローン・レンジャー』がいい例です。
 しかし、マカロニでは違います。『ウエスタン』のヘンリー・フォンダは、キャバルリー・ニッケル・モデルの冷酷非情な使い方で観客を震え上がらせました。正義の味方が愛用した銃をセルジオ・レオーネは判っていて、敢えて悪役に持たせたのではないかと思われます。『星空の用心棒』『盲目ガンマン』『荒野の処刑』の悪役も、銀色のキャバルリーを持ってました。『続・荒野の1ドル銀貨』のジェンマもニッケルのキャバルリーですが、彼はむしろハリウッド映画的に、正義の執行役として(個人的復讐目的含有率80%)、この銃を用います。『ガンマン無頼』の保安官もキャバルリーを撃ちまくりました。復員兵である『続 荒野の用心棒』のジャンゴもキャバルリー派です。この作品のコピー…と言うよりはオマージュに近い作られ方をした『皆殺しのジャンゴ』でも、フランコ・ネロに驚くほど似たテレンス・ヒルはキャバルリーを使用。銃身の長いコルトはロング・コートによく合います。その他、『復讐のガンマン』のリー・ヴァン・クリーフ、『スペシャリスト』のジョニー・アリディー、『二匹の流れ星』『増える賞金、死体の山』のジャンニ・ガルコ、『野獣暁に死す』のモンゴメリー・フォード、『皆殺しのガンファイター』のアンソニー・ステファン、『夕陽のガンマン』のジャン・マリア・ヴォロンテ、『夕陽のギャングたち』のロッド・スタイガーらがキャバルリーを使いました。そうそう、『怒りの荒野』では銃器店のシーンで、リー・ヴァン・クリーフがジェンマに理由あってキャバルリーを買い与えていましたね。

【5 1/2インチ銃身 通称:アーティラリー(砲兵)モデル】
 軍用として用いられたキャバルリーを回収、砲兵用として調整後、再支給された物が、銃身長5 1/2インチ(約140o)のアーティラリーです。日本ではモデルガン独自の呼称として、“フロンティア”モデルと呼ばれた時期もあります。銃身は長過ぎず短過ぎず、バランスが良いせいでしょう、西部劇の主役が最も多く使うモデルでもあります。マカロニにおいても、何となくではありますが、主役はアーティラリーを愛用。敵役、癖のある準主役がキャバルリーを使用。やられっぱなしの脇役や敵役の手下は、4 3/4インチ銃身モデルを握って倒れるケースが多いように思われます。
 本作もそうですが、ジェンマが好んで使用するのが、5 1/2インチ・モデルです。『星空の用心棒』『南から来た用心棒』『怒りの用心棒』『荒野の大活劇』の主人公も使っていました。アンソニー・ステファンもアーティラリーが大好きです。『荒野の棺桶』『地獄から来たプロガンマン』『嵐を呼ぶプロファイター』『追跡者ガリンゴ』等々で、彼は5 1/2銃身のコルトをファニングしまくりました。『情無用のコルト』のコンラッド・サンマルティン、『ミネソタ無頼』のキャメロン・ミッチェル、『ウエスタン』のチャールズ・ブロンソン、『真昼の用心棒』のフランコ・ネロが使ってたのもアーティラリーですが、やはりマカロニきっての5 1/2銃身モデルと言えば、イーストウッド愛用の“ラトル・スネーク・アーティラリー”でしょう。イーストウッドは『荒野の用心棒』に出演するため、『ローハイド』時代から愛用しているアンディ・アンダーソン・デザインのガンベルトと、とぐろを巻いた銀のガラガラ蛇の飾りがインレイされたウォルナット製グリップをイタリアへ持ち込みました。この“スネーク・インレイド・グリップ”は、『荒野の用心棒』では5 1/2インチ銃身の複製コルトに装着され、続く『夕陽のガンマン』ではコルト社純正のS.A.A.に、さらに『続・夕陽のガンマン』ではイタリア製コルトM1851ネービーのレプリカに換装されて、常に“ドル三部作”の主人公の右手から数インチの位置をキープし続けます。ポンチョをめくり上げ、目にも止まらぬ速さで繰り出されるアーティラリーのファニングに痺れたファンも多いと思います。

【4 3/4インチ銃身モデル】
 1879年に登場したのが、エジェクター・チューブと同じ長さの銃身を持つ、4 3/4インチ(約120o)のモデルです。やはり日本独自の呼称として、“シビリアン・モデル”との呼び方をされていましたが、民間(シビリアン)用モデルの中には、7 1/2や5 1/2銃身の物も存在しましたので、4 3/4インチ銃身のものを“シビリアン”と呼ぶのは『銃の名が誤解を叫ぶ』のですよ、アミーゴ。基本三タイプの中で一番銃身が短く、早撃ちには最適。最近では、“クイックドロウ・モデル”と呼ばれることもあります。しかし、マカロニの中では、『夕陽のガンマン』のルイジ・ピスティッリに代表される様に、いつも殺され役が握ってますねえ。


以上、三種類のモデルは、銃身長以外は全て同じ仕様です。しかし、銃器とは面白いもので、銃身長が数インチ違っただけで、まるで異なった銃に見えてしまうのですよ。ちなみに私は、1.全体のシルエットを見る 2.銃身の長さを見る 3.ディティールを見る…ことで銃を判別しておりますが、これを“比較三原則”と呼んでおります。
 では次に、短銃身と長銃身のバリエーションを紹介します。


【バントライン・スペシャル】
 小説家ネッド・バントラインがコルト社に特別注文、ワイアット・アープら5人の保安官に送ったとされる、12インチ銃身のカスタム・モデルです。以来、8インチ以上の長銃身を持つS.A.A.の事を、“バントライン・スペシャル”と呼ぶようになりました。『夕陽のガンマン』でモーティマー大佐が愛用していたのは、S&W製着脱式ストックを装着出来るようにした9インチ銃身のモデル。おもむろに抜いて着脱式ストックを取り付け、歯並びの悪いガンマンを射殺する登場シーンの格好良さは圧倒的です。彼はサドル・バッグにも18インチのバントライン・スペシャルを吊り下げておりました。本来でしたらコルト社純正の着脱式銃床を取り付ければ良いものを、レオーネは独自のこだわりで、わざわざバントラインのバック・ストラップ部分に加工を施し、S&W リボルヴィング・カービン用の銃床を装着させているのです。クリストファー・フレイリング著「SERGIO LEONE ONCE UPON A TIME IN ITALY」に貴重な写真が掲載されてます。たぶん銃のアドバイザーと共に、武器庫でレオーネがS&W リボルヴィング・カービンを検分中のスチールです。この時彼が手に持ってる銃床が、モーティマー大佐のバントライン・スペシャルに取り付けられることになったのでしょう。では、S&Wの銃本体は何処へ行ったのか? 実はその長銃身を持つS&W bRリボルバーは、『復讐のガンマン』の悪役ブロックストンのコレクションの中に、ちらりと登場いたします。
 『南から来た用心棒』のフェルナンド・サンチョは、部下の肩に銃身を乗せ、12インチのバントライン・スペシャルで遠方の犠牲者を倒し、ひゃっひゃっひゃっと笑います。分かりやすいキャラですが、耳元で.45口径を撃たれた部下はたまりません。上司は選べませんので、職種を選び直すべきでしょう。
 『シェーン』のヴァン・ヘフリンが主役を演じた未公開マカロニ、『Ognuno per se』では、二人の殺し屋がそれぞれ着脱式銃床を装着した二挺のバントライン・スペシャルで、主人公サム・クーパーを襲います。意外なことに、コルト社デザインの木製着脱式銃床が取り付けられたバントライン・スペシャルを見たのは、この映画以外に記憶がありません。実際にバントライン・スペシャルとセットになった着脱式銃床は、『OK牧場の決闘』に出て来た様な、スケルトン・ストックが多いようです。

【シェリフズ・モデル】
 エジェクター・チューブを装備してないS.A.A.のバリエーションの中に、2.5〜4in.の短銃身モデルがあります。それらを“シェリフズ”、あるいは“ストア・キーパー”と呼びます。『荒野の1ドル銀貨』でゲーリーが最後まで大切に取っておいた、銃身を切り詰めたコルトに似ているかもしれません。マーク・トウェインは、「もしペッパーボックスを撃つ人間がいたら、その撃つ人間の背後にいない限り安心は出来ない」と書き記しています。“ペッパーボックス”とは、シリンダーがそのまま銃身を兼ねてる(と言うより、銃身が無いも同然の)護身用ポケット・ピストルです。本作の銃身をCUTされたコルトも同様の命中率だったに違いありません。でも、ラストのゲーリーの様な真似、誰だってやりたくないですよねえ。
 マカロニに、この“シェリフズ・モデル”は登場したことがありません。いや、ハリウッド製ウエスタンに登場することさえ、稀です。『昼下がりの決斗』と『さすらいのカウボーイ』で削除された、酒場の銃撃シーンに出てきたくらいでしょうか。最近ではレプリカも作られているので、ガイ・マディソンの…ではなくて、ケヴィン・コスナーの『ワイアット・アープ』でドク・ホリディが持っていたりもします。


(蔵臼金助)

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