『荒野の処刑』 (Togetter「蔵臼金助氏による『荒野の処刑』コラム再録ツイートまとめ」)

 本日はマカロニ・ファンにはあまり評判の良くない、しかし、マカロニとか西部劇とかホラーとかニューシネマなどの区分けも意味がなくなる素晴らしい作品、『荒野の処刑』のコラムを再掲します。

『チャコの怪GUN物語』

 “悪党一掃の日”…嫌な感じです。“正義”をふりかざして公然とリンチを楽しむ町の人々は、本作以外でもムッソリーニ処刑を連想させる『情無用のジャンゴ』、グロテスクなイメージが秀逸の『ガンマン無頼/地獄人別帖』、『殺しが静かにやって来る』『無宿のプロガンマン』等、イタリア製西部劇においては繰り返し描写されてきました。アカ狩りで追われた映画作家の屈辱の記憶が投影されたケースもあるでしょう。イタリアの戦中から戦後にかけての暗い歴史が封印されているケースもあるかもしれません。そして、この後、ホラー作家として名をはせた本作『荒野の処刑』のルチオ・フルチの様に、暴力そのものを観客の生理に訴えかける場合もあります。
 異様なオープニングで幕を開けた本作が作られたのは1975年。既にマカロニ・ブームは消え去り、作品の傾向が質、量共に大きく変化した後の事でした。その辺りの雰囲気を、タイトルで弾丸が込められる銃のUPから伺う事が出来ます。監督の名がクレジットされた所でマカロニにはよく出てくるイミテーションのコルトが写りますが、見ると照星が大ぶりのターゲットサイトになっております。この銃が出てくると、「ああ、マカロニも終焉に近付いた頃の作品なんだなあ」と感慨を覚えてしまうのです。

 コルト社のS.A.A.を基本に、スターム・ルガー社が近代的メカニズムを組み込んだ新型拳銃を販売したのは1955年。安価な値段、丈夫なフレームと暴発を防ぐ新設計、中でもシングル・アクション・リボルバーに搭載された精密射撃用ターゲット・サイトの新鮮な感じが受けて、そのルガー“ブラックホーク”シリーズは大ヒットします。
 本家もすぐさま対抗措置を下しました。“ブラックホーク”の特徴的なターゲット・サイトをそのままコピーした“コルト・ニューフロンティア”を、追って1961年に発表したのです。まがい物が元祖を凌駕し、元祖がまがい物の真似をしてしまう構図が、正統派西部劇とマカロニ・ウエスタンの関係を思わせますね。

 ちゃっかりしていたのは、イタリアのレプリカGUNメーカーでした。コルトやスターム・ルガーがシングル・アクション・リボルバーにターゲット・サイトを取り付ける様になると、彼らもトレンドを早々に受け入れ、自社の複製コルトにも大型フロントサイトと調整可能なリアサイトを装着、新型モデルとして売り始めるのです。これらの真鍮製グリップ・フレームとターゲットサイトを持つ複製コルトは、マカロニでも特に後期の作品に登場。『西部悪人伝』『大西部無頼列伝』などの“サバタ”シリーズで脇役が持ってるのは、大抵このGUNです。

 “ターゲット”と言えば、本作のチャコ(トーマス・ミリアン)の職業は、射撃を得意とする“ハンター”です。獲物は何だか判りませんが。彼が持つライフルは黒色火薬から無煙火薬への過渡期に、ウインチェスター社から発表された新型ライフル、天才銃器発明家ジョン・M.ブローニング設計によるウインチェスターM1892でした。それ迄のM1866、M1873とは異なる独創的なメカニズムを持ったレバー・アクション・ライフルで、より強固になったロッキングボルト・システムにより、強力な弾丸を撃てる様になったのです。故障も少なく、無煙火薬への耐久性も向上。おかげでこの銃で生じた無縁仏は、増加の一途をたどったと言われます。
 彼が持つM1892はフレーム、バレル共にニッケルめっきされた、銀色に輝くカスタム・ライフルです。マカロニでは他に、『黄金の棺』にも登場しました。“ニッケルめっき”とは防錆を主とし、対蝕性、耐摩耗性を高めるため、金属素材の表面にニッケル皮膜を生成させる処理のことを言います。もちろん装飾目的もありますが、一説によると近距離で撃ち合う際、相手を威嚇する効果もあったと聞きます。きらきら光るニッケルめっきの銃は、確かに決闘の場で相手を威圧したことでしょう。『ウエスタン』に登場したニッケルめっきのキャバルリー、ヘンリー・フォンダの使い方が正にそのお手本です。そしてチャコの持つ二挺拳銃も、ライフルとお揃いのニッケルめっきされたコルトでした。

   『ウエスタン』のフランク(ヘンリー・フォンダ)がかまえる、ニッケルめっきされたコルト・シングル・アクション・アーミー。ハリウッド製西部劇では、正義の味方が使う拳銃です。

   ブラジル/Rossi社製ウインチェスターM92・ニッケルモデル
   ニッケルめっきのウインチェスターでスタビー(ファビオ・テスティ)を威嚇するチャコ(トーマス・ミリアン)。
   チャコは常に傍らにウインチェスター(もちろん女性に乱暴する時も)。



 銀色の拳銃とライフルで武装し、ヒッピー然とした格好のチャコに対し、スタビー(ファビオ・テスティ)は武器を持たず、マカロニには珍しい、きちんと髭を剃ったギャンブラーであります。

   機会があれば常に髭を剃る、スタビー。フルチらしく、剃刀セットの描写が丁寧。

 彼が大切に持ち歩く髭剃りセットの描き方などにも、フルチの一筋縄でいかない個性が感じられますが、もはやマカロニのスタイルを全て失った本作。荒涼とした世界の果てへ去って行ったスタビーと共に、イタリア製西部劇は何処へ行こうとしていたのでしょうか?


   『荒野の処刑』の(左から)トーマス・ミリアン、リン・フレデリック(ピーター・セラーズの元奥さんです)、ファビオ・テスティ。

    山脈を脱走して、マイケル・J・ポラードが何処へ行っちゃったんだろうと思っていたら、『荒野の処刑』に出ていたんですね。ぐだぐだした役柄やらせたら最高。『デッドフォール』で久々に見て、相変わらずぐだぐだしてるな〜と思ったらまた暫く見なくなって、『マーダー・ライド・ショー』で再開した時は驚きました。



(蔵臼金助)

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