【Chapter 3】

 剃り落としたかと思うほど薄く短い眉の下に、落ち窪んだ双眸があり、三白の眼はぞっとするほどに青い。
 カウボーイハットの影が落ちるその両目からの眼差しは、手元に注がれている。
 その女は左手に角張った銀色の小さなプレートを持っていて、右手の金属ヤスリでそれを削っていた。小刻みに動かすこともあれば、一擦り一擦り、慎重にヤスリを引くこともある。
 肩の上で乱雑に切り揃えられたまっすぐのブロンドが、手の動きのたびに揺れた。
「そ、そろそろ時期だと思います」
 女の傍に、くたびれた中年の男が二人跪いている。どちらも緊張と怯えに支配された表情で帽子を身体の前に握り、赤いシャツを着た一人が女を見上げて言った。造りが古く手入れも悪いが歪な高級感のあるその部屋には、彼らを囲んで見張るように、いかにもならず者といった態の人影が五つはある。
 女は革張りの椅子に座り、マホガニーの丸テーブルに両足を乗せている。男たちのほうは見もしない。
 一九〇センチメートルはある長身と、豊満な胸部、筋肉にしっかりと覆われた身体つき。その上に、妙に仕立てのよい三つ揃いのグレーのスーツを着込む。真紅のリボンタイの結び目は、些か乱雑だ。
「さ、最低でも一万ドルは、金庫にあります。間違いありません」
 女は薄い唇を笑みに歪めたままヤスリを動かす。そして口を開く。
「本当に一万あるか? 本当に間違いなく?」
 跪く男たちは不安気に顔を見合わせ、今度は青いシャツを着た男が答える。
「九千……九千五百かもしれません」
「足りないねぇ」
 控えめになった答えに、女のヤスリの音が大きくなる。銀色の金属板は、六芒星の形を明確にしつつある。六つの先端の小さな円が整えられてゆく。男たちはそのヤスリが金属の削りかすを出すごとに、汗を滲ませ顔に伝わせる。
 女は息を吹きかけて銀のプレートにまとわりついた削りかすを飛ばし、そしてテーブルから足を下ろして立ち上がった。
「お前らも立ちな」
 男たちは再び顔を見合わせ、怯えたように瞳を揺らしたが、素直に従う。女が青いシャツの男に近寄って、その頭を片手で撫で抱え、顔を上に向かせる。女は、男に影を落とすほどに大きい。
「口を開けろ」
 男は目に涙を滲ませながら小刻みに首を左右に振る。しかし女は許すことなどしない。
「俺の言うことが聞こえなかったかねぇ? 口を開けろ」
 がくがくと顎を震わせながら男が口を開ける。女はゆっくりと頷き、次の瞬間には男の口に削った六芒星をねじ込んでいた。
 男が尖った金属を口内に押し込まれた痛みにうめくと同時に、女は腰のガンベルトから撃鉄を起こした銃を抜き、悶える男の左胸に向けて引き金を引いた。男は首を、上半身を、大きく後ろへ仰け反らせてそのまま床に倒れる。
 手配書と同じ、唇が裂けるようないやらしく不吉な笑みを浮かべた後、ゲール・ブレナンは大声を上げて笑い始めた。
「来週までに二万ドルだ!」
 今にも腰を抜かしそうにしている赤シャツの男の身体をドアのほうへ向かって乱暴に押し、哄笑混じりにゲールが叫ぶ。
「来週までに合計二万ドル、金庫にぶち込んでおけ! 一ドルでも少なかったら容赦しねぇ!」
 赤シャツは大きく三度頷いて、取り巻きの一人が開けたドアの向こうへ、こけつまろびつしながら逃げ戻って行った。
 ゲールはぴたりと笑い声を止め、床に転がる青シャツの死体を蹴った。片づけろ、と顎で示す。即座に取り巻きが二人、その死体の足を掴んで引きずってゆく。
 死んだ男の口には、ゲールの削り出した、いびつな六芒星――シェリフバッジが咥えられたままだ。
 そしてゲール・ブレナンがホルスターに戻す銃は、鈍く黒く光るS.A.A.のキャバルリー。そのアイボリーのグリップにはやはり、先端に円のついた六芒の星が刻まれていた。



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夕陽の決斗/黄金ガンマン
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