西部劇に登場した珍しいロングガン解説(ライフル篇) (Togetter「蔵臼金助氏による、西部劇に登場した珍しいロングガン解説(ライフル篇)

西部劇に登場した珍しいロングガンを並べてみます。まずは、ライフル篇。


【スペンサー・ライフル】
 『続・夕陽のガンマン』で最後にテュコのロープを切った、オクタゴン銃身を持つライフルがそうです。イーストウッドは26年後、『許されざる者』の最後でカービン・タイプを用いました。マカロニもそうですが、ハリウッド製西部劇にもなかなか出てきません。

 最近ですと『3時10分、決断のとき』『アパルーサの決闘』にカービン・タイプが登場しましたが、発砲シーンはありません。古い実銃なので、実射に適さなかったのではないかと思われます。

  『情無用のジャンゴ』リンチシーンに登場している、スペンサー・カービン。手前の男がハンマーを起こしたまま持っています。


【レミントン・ローリングブロック・ライフル】
 コルブッチはこの銃が好きだったのかもしれません。『ミネソタ無頼』で脱獄したばかりのミネソタ・クレイが馬上から落下しつつ拾って撃ち、『さすらいのガンマン』ではダンカン一味に襲われる騎兵隊が全員、マスケット・タイプで武装していました。

    『情無用のジャンゴ』に登場した、レミントン・ローリング・ブロック・ライフル。

 後装・単発の大口径ライフルで、『大西部無頼列伝』の冒頭、マードック兄弟との決闘では装填シーンの接写が見られます。


【コルト ライトニング スライド・アクション】
 『夕陽のガンマン』のモーティマー大佐がサドル・バッグの中に入れていた4挺の銃のひとつです。インディオに射殺される銀行の警備員もこの銃を持ち歩いていました。
『復讐のガンマン』のリー・ヴァン・クリーフは最後にニッケルめっきのこの銃で決着をつけ、『アヴェ・マリアのガンマン』では、セバスチャンが酒場の撃ち合いで使用しました。先台を前後に往復させる事で連射させるこのアクションは、散弾銃によく使われています。


【エヴァンス・リピーティング・ライフル】
 『復讐のガンマン』のブロックストンが鞍にさしたライフル・スキャバードから飛び出した銃床部分を見ると、ストック中心をチューブ・マガジンが貫いているのが判ります。この銃が19世紀当時、大変なファイア・パワー(34連発)を持つロータリー・マガジンを備えた、エヴァンス・リピーティング・ライフルです。ウォーレン・R.エヴァンスが1873年に開発。ルイジ・コラーニ・デザインを想わせる、曲線で構成された奇抜なフレームが特徴。『トゥームストーン』『クロスファイア・トレイル』にも登場しました。

   奇抜なフォルムを持つ、エヴァンス・リピーティング・ライフル。
    『オペラ座の怪人』のマスクを思わせる、機関部のデザイン。



【マーリンM1893】
 今でも狩猟用に散弾銃、ライフルを製造中のメーカーのレバー・アクション・ライフルです。ウインチェスターによく似ているので流用されたのでしょう。『夕陽のガンマン』でクラウス・キンスキーたちが持っています。
 マカロニではありませんが、ウォルター・ヒルの傑作アクション、『ストリート・オブ・ファイヤー』でマイケル・パレが愛用。ロングコートにレバー・アクションのマーリン…まるで西部劇です。

【ハモニカ・ガン】
 『大西部無頼列伝』のインディオ・ブラック専用カスタム、“ガンズ・バイブル”は、ウインチェスターM1866に大きく手を加え、カセット弾倉をフレームの横から差し込むオリジナル銃です。
 ジョン・M.ブローニングの父親が設計した試作連発銃がモデルではないかと思われますが、その銃は箱型弾倉を横から差し込むため、“ハモニカ・ガン”とのニック・ネームがつけられていました。


【ノック・ボレー・ガン】
 7つの銃身を備え、7発の弾丸を一斉に発砲できる武器です。英国海軍が対狙撃兵用に開発しました。『アラモ』でリチャード・ウィドマークが使ったものがリアルなものですが、マカロニにはフルオートで撃ちまくるノック・ボレー・ガンに似たトンデモ兵器が登場、『十字架の長い列』や『荒野の三悪党』で活躍しました。


 西部劇に登場した珍しいロングガン(ライフル編)の続きです。ボルトアクションライフルを紹介します。

【モーゼルM1893】
メキシコ革命劇には頻繁に登場するボルトアクション・ライフルの定番です。マカロニ・ウエスタンはスペインでロケする機会が多かったため、この“スパニッシュ・モーゼル”が大量に登場することが出来ました。以前、『群盗荒野を裂く』で詳しくご紹介さしあげましたので、そちらも参考になさって下さい。

   “スパニッシュ・モーゼル”のカービン・タイプ。『群盗荒野を裂く』では、このカービン・タイプのモーゼル・ボルトアクションが狙撃シーンに使われた。


【クラグ・ヨルゲンセン】
 ヤキ・インディアン武装蜂起のために強奪された100挺のライフルをめぐる痛快アクション、『100挺のライフル』。ジェリー・ゴールドスミスの軽快な音楽に乗せて、マカロニ風タイトルで描かれたのはウインチェスターM1892でしたが、劇中で扱われるのは、米軍が最初に正式採用したボルト・アクション・ライフル、ノルウェー製のクラグ・ヨルゲンセンです。右側に飛び出した独特の弾倉が特徴です。


【スプリングフィールドM1903】
 クラグ・ヨルゲンセンに変わり、モーゼル小銃を参考にして、アメリカ陸軍に1903年から支給された国産のボルト・アクション・ライフルです。精度の高さから第一次〜第二次大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争でも使用されました。『ワイルドバンチ』で、M1903の代用品として、M1903A3が使われました。

【カルカノM1891】
 M1938が登場する迄、イタリア軍が正式採用していた軍用小銃です。国内に未だ多数在るのか、メキシコ革命を背景としたマカロニ・ウエスタン、『五人の軍隊』『復讐無頼・狼たちの荒野』などに出て来ます。この銃の発展型M1938は、ケネディ大統領暗殺事件において使用されたことで有名です。

   『五人の軍隊』でメキシコ政府軍が用いたカルカノ。しかし、バッド・スペンサーの拳骨には敵いません。

   おまけ。フランス製ボルトアクションライフル、ベルティエM1916。『荒野の死闘』『100挺のライフル』などに出てきます。



 続いて、遠距離射撃、精密射撃に特化したライフルを見てみましょう。
 眼下に広がる荒野を移動する、馬上の男のシルエット。遙か遠方に見えるその影を見つめていると、レバー・アクションの操作音が聞こえ、直後に鋭い銃声。男はひっくり返り、荒野にライフルの銃声が木霊します。皆さん何度も繰り返し観てご存じの、『夕陽のガンマン』のアヴァン・タイトルです。遠い遠い昔、偶然手にした石を獲物に投げつけたら当たった時のネアンデルタール人の記憶にもつながる、原初的な歓びを感じてしまいます。
 西部劇の見所、決闘における早撃ち。一瞬のうちに勝負が決まるクイック・ドロウの世界は、時代劇の居合抜きにも似て日本では人気があります。しかし、それとは別に、バッファロー・ハンティングの文化から発達した長距離射程狙撃の技術が、19世紀には既に確立されていました。『殺しのテクニック』や『山猫は眠らない』のルーツにあたる、“西部のゴルゴ13”たちが用いた武器を、種類別に見てみましょう。


【バッファローガン】
 主にバッファロー・ハンティングに用いられた、大口径・長距離射程のライフルは“バッファロー・ガン”と呼ばれました。その代表的な銃がシャープス・ライフルです。クリスチャン・シャープスが1859年に設計。可燃リンネル製の薬莢から金属薬莢へと進化しながら、ハンター、兵隊たちに愛用されました。『ブラッディ・ガン』で印象的な描き方をされたせいか、米国ではちょっとしたブームとなり、トム・セレックが演じた主人公の名を冠した“クイグリー・モデル”がレプリカとして発売されています。

 『追撃のバラード』では、騎兵隊に採用されたスプリングフィールドM1873を主人公バルデス(バート・ランカスター)が使用、遠距離の敵をバタバタ倒すのが痛快です。他にも開拓期の西部では、.50口径のメイナード・ライフル、レミントン・ローリング・ブロック・ライフル、マーリン=バラード、ウインチェスターM1885 シングル・ショット・ライフルなど、様々なバッファロー・ハンティングに特化した長距離射程の狩猟用ライフルが販売されていました。


【テレスコープ付きライフル】
 『さすらいの一匹狼』公開当時、ハンク・フェロウの使うテレスコープ付きイエローボーイが物議を醸しました。しかし、光学照準器を搭載したライフルの歴史は意外に古く、1854年には既に、初期のチューブ・スコープがサイド・マウントされたマズル・ローダー、ウィットワース・ライフルが実戦に投入されていました。
 南北戦争でも北軍の狙撃兵が光学照準器付きのライフルを使い、南軍兵士を悩ませていたそうです。
 『アウトロー』『マーベリックの黄金』『デッドマン』には、チューブ・スコープ付きのシャープスが登場、マカロニでは『怒りの用心棒』『風の無法者』『UNO DI PIU' ALL' INFERNO』にスコープ付きライフルが登場しますが、最も印象的な使われ方をしたのは『さらば荒野』です。英国のマルティニー・ヘンリー銃に銃身と同じ長さのロング・チューブ・スコープを装着したカスタムが複数登場、アウトロー集団に妻を強奪された金持ち集団が人狩りに用いました。荒野を揺るがす大口径単発レバー・アクション・ライフルの轟音は、今でも忘れられません。

   ブリティッシュ・マルティニー/ヘンリー ライフル。これのスポーター・タイプにチューブスコープを搭載したものが、『さらば荒野』に登場する狙撃銃。

   ヘンリー/マルティニーのカスタムライフルで狙いをつけるジーン・ハックマン。
   『さらば荒野』には、そのカスタム・ヘンリー/マルティニーが複数挺、登場いたします。

   『続・夕陽のガンマン』でブロンディ(クリント・イーストウッド)が使用した、M66改ヘンリーライフルにマウントされた、リアルなチューブスコープ。


『シノーラ』には、三種類のレアなスコープ付きライフルが活躍。一挺目は、初期のボルト・アクション・ライフルであるレミントン・キーン。チューブ・マガジン、有鶏頭と、ボルト・アクション・ライフルとしては過渡期のデザインを思わせます。劇中ではチューブ・スコープが装着され、丁寧に、撃鉄をコッキングする描写もありました。

   レミントン・キーン。初期のボルトアクション・ライフル。
   『クロスファイア・トレイル』で殺し屋が使います。


 そのレミントン・キーンと狙撃対決をするのが、イーストウッドが用いるカナダ製ボルト・アクション・ライフルの、ロスM1910スポーター。珍しいストレート・プル・アクションのそのライフルを、ジョー・キッドは焦らず、ゆっくりと組み立て、最後にチューブ・スコープを取り付けて、一発で敵を倒すのです。着弾から銃声がずれて聞こえてくる映画的演出も効果を上げていました。


 最後は、アメリカでは高級銃として知られるレバー・アクションのサベージ99。ロバート・デュバル扮する悪役が使います。使用しない時は、スコープ部分を常に布製のカバーで覆っているのがいい感じです。


(蔵臼金助)

Back