西部劇に登場した珍しいロングガン解説(マシンガン篇) (Togetter「蔵臼金助氏による、西部劇に登場した珍しいロングガン解説(マシンガン篇)

 西部劇に登場した珍しいロングガン(マシンガン篇)を解説します。リアルな方ねw シュールなやつは『増える賞金、死体の山』解説を参考にして下さい。 


【ガトリングガン】
 本来なら怪我を治療するのが本業である医師、リチャード・ジョーダン・ガトリング博士(1818-1903)が1861年に設計したのが、複数の束ねた銃身を手動のクランクで回転させ、弾丸を連続発射させる“ガトリングガン”です。本職を繁盛させるために需要を作り出そうとしたのでしょうか? さすが医者は頭が良いです。『スレッジ』に登場したガトリングガンは、『3時10分、決断のとき』の装甲馬車に搭載されてた様なリアルなものではなく、どことなくいかがわしい感じの“マカロニ・ガトリングガン”なのがナイスです。このタイプのチープな形状のガトリングガンは、チネチッタで各種作られたようで、『必殺の用心棒』『黄金無頼』『殺して祈れ』『荒野の無頼漢』『黄金の三悪人』『ロス・アミーゴス』…色々な作品でディティールが異なる、無数のバリエーションを見ることが出来ます。

ガトリング博士が考案した新型兵器の設計図(設計当初は、“バッテリーガン”との名称だったことが伺われます)。
正面から見たガトリングガン。複数の銃身を手動で回転させて、装弾〜発射〜排莢を繰り返します。


   西部劇に登場したガトリングガン:お手本のケース@ 『バッド・ガールズ』
   西部劇に登場したガトリングガン:お手本のケースA 
   マカロニ・ウエスタンに登場したガトリングガン:お手本のケースB 『西部悪人伝』
   ※チネチッタには大変良くできたガトリングガンのプロップがあり、sabataシリーズや『盲目ガンマン』に出てきます。

   マカロニ・ウエスタンに登場したガトリングガン:残念なケース@ 『黄金無頼』
   マカロニ・ウエスタンに登場したガトリングガン:残念なケースA 『Chiedi Perdono a Dio...non a me』
   マカロニウエスタンに登場したガトリングガン:残念なケースB 『必殺の用心棒』

   マカロニ・ウエスタンに登場したガトリングガン:まあまあなケース 『ロス・アミーゴス』


 『脱獄の用心棒』(英題は“THE GATLING GUN”で、ガトリング博士も登場)に出て来たもの、『西部悪人伝』『大西部無頼列伝』『盲目ガンマン』に登場したもの(いずれも同じプロップ)は比較的リアルな形状ですが、多くは進化し過ぎたアンモナイトのような、銃身の数が多過ぎたり、給弾方式が謎だったりする、アンバランスなもので占められています。
 そんな中で、『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』に登場したガトリングガンは、時代考証を考え、撃ち方も含めて気合いの入ったものでした。橋をめぐる攻防戦にちらりと出てくるだけなのがもったいくらいで、スティック・マガジンを使用する大型のものと、円筒形ドラム・マガジンを用いる、通称“キャメル・ガン”の2種類が登場します。

   らくだに載せるので“キャメルガン”。銃身が短く、コンパクトに作られています。

 ガトリングガン発明以前にも機関銃は存在、黎明期の機関銃に、予め弾丸が装填された多数の銃身を並べて、手動で一度に発射する“ボレー・ファイアリング・ガン(VOLLEY-FIRING GUN)”と呼ばれるものが在りました。“VOLLEY”とはバレーボールのバレーと同じで、“一斉射撃”の意味があります。その発想はレオナルド・ダ・ヴィンチがスケッチした多銃身連発銃のスケッチにまで遡ります。南北戦争勃発時には既に、バーンズ・マシンガン、リプリー・マシンガン、ビリンガースト・バッテリー・ガン等のパテントが申請され、北欧では銃身を横に並べた対船上要員掃討用のノルデンフェルト、英国ではヴァンデンベルグ・ボレー・ガンが実用化されていました。

 このヴァンデンベルグ・ボレー・ガン、普仏戦争でフランス陸軍が使用したモンティニ・ミトライユーズは、砲身全面に蜂の巣の様な形で銃口(ヴァンデンベルグは85、ミトライユーズは25)が空いており、“ジャンゴ・マシンガン”のモデルになったのではないかと思われます。ガトリングガンは手動で複数の銃身を回転させて連発させる機関銃ですが、続けて、ガス圧や反動を利用した、全自動機関銃に移ります。


【ホチキス Mle 1900】
 『豹/ジャガー』で“ホーキンズの最新式”と呼ばれ、主人公セルゲイが自動車に搭載してメキシコ軍を蹴散らした機関銃が、ホチキスMle1900です。前世紀初頭は世界中で動乱、紛争が勃発。ホチキスはその名に恥じず、あちこちで生じた綻びを綴じ合わせておりました。第一次世界大戦ではフランス、イギリス、アメリカ軍が採用、日露戦争では日本軍も使っています。映画に登場したモデルはメキシコ革命で実際に使用され、エンリケ・クラウゼ著「FRANCISCO VILLA, ENTRE EL ANGEL Y EL FIERRO」掲載の、当時撮られた数枚の写真の中に見る事が出来ます。マカロニに登場する機関銃としては珍しい、実在した由緒正しい銃だったのです。オーストリア/ハンガリー帝国陸軍大尉アドルフ・フォン・オデコレック男爵が、当時フランスに在ったホチキスCie社(アメリカ人ベンジャミン・バークレイ・ホチキスが創業)を訪ね、彼が考案したガス圧利用の作動方式を、アメリカ人技師ローレンス・ベネットが組み込んで完成させました。このエピソードだけでも充分マカロニの題材になりそうです。オデコレック男爵役はジェラルド・ハーター、ベネットはジョージ・マーティンが適役でしょう。


   『豹/ジャガー』でフランコ・ネロ扮するポーランド人傭兵セルゲイ・コワルスキが使用する、ホチキス機関銃。
   手にはアストラM400を握っています。
   セルゲイ・コワルスキ、戦闘中メキシコ革命軍にホチキスの組立賃200ドル(消費税込、射撃代は別途)を請求中。
 
   エンリケ・クラウゼ著「FRANCISCO VILLA, ENTRE EL ANGEL Y EL FIERRO」掲載、メキシコ革命時に使用されているホチキス機関銃。
   同じくエンリケ・クラウゼ著「FRANCISCO VILLA, ENTRE EL ANGEL Y EL FIERRO」掲載、記念写真にも映り込むホチキス機関銃。

   『群盗荒野を裂く』にも登場しています。


 エンリケ・クラウゼ著「FRANCISCO VILLA, ENTRE EL ANGEL Y EL FIERRO」掲載の写真は、広島在住のマカロニ重火器研究家オホス・ネグロス氏(仮名)より提供いただきました。彼はスクラッチ・ビルドで1/1スケールのジャンゴ・マシンガンやホチキス機関銃を製作、毎年開催されるマカロニ大会に持ってきては喝采を浴びる、ストレンジ・ラブ博士みたいな人ですw


広島市在住マカロニ重機研究家オホス・ネグロス氏がバルサと紙で作り上げた、1/1ホチキス機関銃。


【シュワルツローゼ 07/12】
 箱状と円筒形の物体を組み合わせ、銃口からボアボアとアセチレンガスの炎が噴き出るマシンガンが活躍するのが当たり前だったマカロニの世界で、いきなり実銃の機関銃が登場したのが『暁の用心棒』でした。ヴァンス・ルイス監督はこの映画で、フランク・ウォルフに第一次大戦中オーストリア軍が航空機搭載用機銃として採用した、シュワルツローゼ 07/12を撃たせております。撃つばかりではなく、弾丸を装填・発射・排莢するプロセスを全て見せ、カタカタとハンマーが安っぽく動くのがリアルでした。マキシム機関銃の代用品として登場させたのでしょう。1890年代のメキシコ国境近い寒村が舞台なのに、1907年にオーストリアで開発されたこの銃が出てくるのがちょっと残念です。発射シーンはありませんが、『五人の軍隊』では何と三挺ものシュワルツローゼ機関銃が、砂金を運ぶ武装軍用列車に搭載されていました。

   『暁の用心棒』で山賊アギラ(カプセル怪獣ではありません)が撃ちまくるシュワルツローゼ。


【マキシム機関銃】
 近代的機関銃の基礎を築いたのが、ハイラム・マキシムの設計したガス圧作動で自動的に給弾・発射を繰り返すマキシム機関銃です。『荒野の用心棒』でまがいもののマカロニ・マシンガンを出してしまった屈辱を晴らす機会を、セルジオ・レオーネは虎視眈々と狙っていたに違いありません。メキシコ革命に登場する機関銃としては正しいこの銃器を、『夕陽のギャングたち』のロッド・スタイガーはバリバリ豪快に撃ちまくります。その時ジェームス・コバーンは、ドイツ軍の誇る第二次世界大戦中に開発された主力兵器MG42を撃ってますが、片目を瞑っておきましょう。さらには森の中や貨車のシーンで、チェコのZB53を元に英国が1930年代にライセンス生産した、BESAマシンガン・イタリアン・バージョンがちらほら見える気もしますが、頭を下げて地に伏せ、見ない様にして下さい。

   『夕陽のギャングたち』のロッド・スタイガー。マキシム機関銃にヴィッカースの三脚を用いています。
   『夕陽のギャングたち』のジェームス・コバーン。MG42のストックを取り外したものを使用。
   『無頼プロフェッショナル』に登場したマキシム機関銃。



【ブローニングM1917】
 『ワイルドバンチ』のもう一つの主役とも言える重機関銃が、ブローニング水冷式マシンガンM1917です。第1次世界大戦に備え、ジョン・M・ブローニングが1900年に試作した反動利用のマシンガンに米軍が注目、発展・改良させたのが、このM1917です。レシーバー下部に追加された強化板とリベット、独特な射撃角度調整板を備えた三脚などから、本作に出てきたブローニング機関銃は、1930年代に陸軍造兵廠で改良を加えられた、M1917A1である事が判ります。時代考証を考えるとちょっと違いますが、まあ遠目には判りっこありません。マキシム機関銃とは異なるピストル・グリップを握りしめたまま死んでいったパイクの姿は、涙なくしては観ることが出来ません。


【ルイス機関銃】
 『誰がために鐘は鳴る』でゲイリー・クーパーと一緒に写ってることで有名な機銃です。『プロフェッショナル』では銃器のスペシャリスト役のリー・マーヴィンが腰だめで撃ってました。ギルバート・ローランドとロリー・カルホーンが出演したメキシコ革命劇、『黄金の銃座』にも登場します。マカロニで見たことはありません。銃身を取り巻く円筒状の空冷式放熱カバーが特徴のこの銃は、米陸軍アイザック・ニュートン・ルイス大佐が1911年に完成させ、ベルギーと英国で採用、主に第一次大戦において使用されました。



(蔵臼金助)

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