『続 荒野の用心棒』 (Togetter「蔵臼金助氏による『続 荒野の用心棒』コラム再録ツイート+解説まとめ」)


 秋口よりマカロニウエスタンの定番作品、『続 荒野の用心棒』『殺しが静かにやって来る』『荒野の1ドル銀貨』『怒りの荒野』『情無用のジャンゴ』の5作品が国内でブルーレイ化されます。5作品が順次発売後、年末には全米で『ジャンゴ・アンチェインド』が公開。翌年2013年にはおそらく日本でも公開されて、2014年の“マカロニウエスタン50周年”に向けて祝砲を撃ってくれるでしょう。
 夏なんてあっと言う間に終わってしまうので、ブルーレイ発売に向けて予習と復讐だ、野郎共!
 まずは、イタリア製西部劇全般のおさらいから。
 て〜訳でな、Companeros。イタリア製西部劇のこととなるとつい口調も変わっちまうんだが、これからニーニョやキッドのためにも予習として、作品毎にtweetして行くぜ。で、まずは、『続 荒野の用心棒』からだ。昔DVD用に執筆して、書籍に転載したコラムを再掲するぜ。

『マカロニ・コルトは黄金の輝き』

 さて。『続 荒野の用心棒』です。マカロニ・ウエスタンの爆発的流行を促したのは『荒野の用心棒』でしたが、イタリア製西部劇のアイデンティティが確立したのは、この『続 荒野の用心棒』からです。冒頭、ぬかるみの中を棺桶を引きずって歩いて来る主人公、ジャンゴ(フランコ・ネロ)。いきなり観客は異様な雰囲気の世界へ叩き込まれます。棺桶は人生の象徴と言う人もいますが、確かに私も仕事で辛い目に遭った時なぞは、重たそうな棺桶を引きずり、いかにも寒そうな小雨の中を黙々と歩くジャンゴを思い出して、頭の中ではベルト・フィアが“さすらいのジャンゴ”を熱唱しています。雨が降り、ぬかるみ道だとついうれしくなって、ジャンゴを真似たやるせない表情が、“ぬかるみ喜び”の笑顔に変わったりもします。
 ジャンゴが使う拳銃は、スティール製トリガー・ガード&バック・ストラップのシングル・アクション・アーミー 7 1/2インチ銃身、通称“キャバルリー”モデルです。イタリア製西部劇に頻繁に登場するコルトのレプリカですが、クライマックスの墓場シーンを見ていて、おや? と思われた方もいらっしゃったのではありませんか。両手を潰されたジャンゴが十字架にコルトを立てかけ、トリガー・ガードを歯で外そうとするのですが(真似しちゃいけませんよ。無理なんですから)、カメラアングルによって銃身の長さが変わるんです。ネロが前歯を折ってはいけないので、コルブッチ監督は特製コルトを用意したのですね。このシーンでは、トリガー・ガードだけ取り外せる専用プロップが登場します。もちろんこんな銃は存在しません。そして、小道具係が銃を間違えてしまったのでしょう。そのプロップは実射用キャバルリーよりも銃身の短い、5 1/2インチ銃身・真鍮製トリガー・ガード&バック・ストラップ付きの、アーティラリー・モデルに仕上がっているんです。マカロニ・ウエスタンに出てくる銃器を特徴づけてるのは、何と言っても黄金色の真鍮製フレームです。ウインチェスターはおしなべて“イエローボーイ”と呼ばれるM66が使われ、コルトには何故かブラス・フレームが装着されました。安価で加工し易いと言った実用的な理由もあるのでしょうが、お洒落で派手好きなイタリア人の事です。見た目重視の結果、素材として真鍮が選ばれたのではないかと私は睨んでいます。

  『続 荒野の用心棒』より、タイトル。棺桶を引きずって登場する主人公ジャンゴ(フランコ・ネロ)。
   主人公の名は、セルジオ・コルブッチの好きなジャズ・ギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトより採られた。
  ジャンゴが使うサイドアーム、スティール製グリップフレームの付いたコルト シングル・アクション・アーミーのイタリア製レプリカ、7.5インチ銃身モデル。
  最後の墓場での決闘シーンでは、真鍮製グリップフレームの付いたコルト シングル・アクション・アーミーのイタリア製レプリカ、5.5インチ銃身モデルに化ける。


 それでもやはり、マカロニ・ウエスタンでも主役にはコルト社純正のS.A.A.を持たせたかったのでしょう。『夕陽のガンマン』でイーストウッドが愛用する“ラトル・スネーク”アーティラリー、『星空の用心棒』でジュリアーノ・ジェンマが使ったコルト、『ウエスタン』でヘンリー・フォンダのホルスターに収まっていたニッケル鍍金のキャバルリー……いずれもが1960年代当時、コルト社でリバイバルワークされた“2nd GENERATION”と呼ばれるアメリカ純正のコルトです。

  『夕陽のガンマン』でイーストウッドが使った、コルト社純正シングル・アクション・アーミー、5.5インチ銃身モデル。
  『星空の用心棒』でジュリアーノ・ジェンマが使用した、コルト社純正シングル・アクション・アーミー、5.5インチ銃身モデル。
  『ウエスタン』でヘンリー・フォンダが悪用して観客を震え上がらせた、ニッケルめっきのコルト社純正シングル・アクション・アーミー、7.5インチ銃身モデル。


 そんな中で、フランコ・ネロだけは、かたくなにマカロニ・イミテーション・コルトを使い続けました。この代表作『続 荒野の用心棒』に始まり、『真昼の用心棒』『ガンマン無頼』『裏切りの荒野』…と、彼はイタリア製コルトをファニングし続けます。何だかうれしいじゃありませんか。

  『真昼の用心棒』で、イタリア製レプリカのシングル・アクション・アーミー、5.5インチ銃身モデルをファニングするネロ。
  『ガンマン無頼』で、イタリア製レプリカのシングル・アクション・アーミー、7.5インチ銃身モデルをファニングするネロ。


 その後、マカロニ・ブームで力をつけた各レプリカメーカーは独自の市場を開拓。現在、レマットとスタールだったらフィリ・ピエッタ社、レミントンはアルミ・サン・マルコ、ステンレス製レプリカのサン・パオロ…と、モデル毎に細分化されたそれぞれのマーケットを持つようになりました。中でもトップ・メーカーとなったアルド・ウベルティ社は、イタリアの名門ベレッタ社の傘下に入り、今では堂々とコルト社より下請けメーカーとしてシングル・アクション・アーミーを製造しております。『続 荒野の用心棒』で人気が出て、その後国際派スターの仲間入りを果たしたフランコ・ネロと重なっているようで、これもまたうれしい話ですね。

『続 荒野の用心棒』 Django (1966年イタリア・スペイン合作映画/1966年劇場公開作品)




解説

 ガンマン&用心棒のCompaneros、予習と復讐の時間だぜ。今日は『続 荒野の用心棒』の解説だ。

 『続 荒野の用心棒』Django(1966年イタリア・スペイン合作映画/1966年劇場公開作品)
 “さすらいのジャンゴ”の主題歌と共に、棺桶を引きずったガンマンがやって来る!

 ぬかるみの荒野を、棺桶を引きずりながら登場する主人公。全編が異様な雰囲気に包まれ、ひたすら殺戮が繰り返されるストーリー。『荒野の用心棒』(1964)の続編として公開されたが、実際にはイーストウッドが演じた“名無しの男”とは異なるキャラクターの、独立した話だ。辺境の町で対立する二つの勢力を全滅させようとする一匹狼のガンマン、凄惨なリンチ、墓場での撃ち合い、マシンガンによる皆殺し……共通項は多いが、その後、ハリウッド製西部劇の再構築を目指したセルジオ・レオーネの世界観とも異なる、まさに“イタリア製西部劇”としての独自のカラーを確立させた記念碑的マカロニウエスタンである。この作品の登場によって、それ迄のハリウッド製西部劇の既成概念は崩れ去り、多くの亜流映画を生み出すことになった。その影響は40年の時を超えて、三池崇史監督の新作、『スキヤキウエスタン ジャンゴ』にまで受け継がれている。1987年には、フランコ・ネロ主演による正式な続編、『ジャンゴ/灼熱の戦場』も作られた。
 ジャンゴ・ラインハルトを愛したコルブッチにより命名された主人公ジャンゴを演ずるのは、撮影当時24歳だったフランコ・ネロ。相手役マリアには、モデル出身のロレダナ・ヌシアク。舞台設定やアクション、残酷描写は『荒野の用心棒』を踏襲、マカロニウエスタンの代表作ともなっている本作であるが、実は『続 荒野の用心棒』はマカロニウエスタンにはきわめて珍しい、純愛物語でもあるのだ。金だけが生き甲斐、銃の腕を頼りに暴力渦巻く荒野の果てで凄絶な死闘を演じた後、ジャンゴはマリアへの愛を信じて銃を捨て、かつて愛した女の十字架に背を向けて過去と決別、墓場を去って行く……出演は他に、憎々しげな人種差別主義者ジャクソン少佐を演じてはまり役となったエドゥアルド・ファヤルド、マカロニウエスタンの名バイプレイヤーであるホセ・ボダロ、スペインのベテラン俳優エンジェル・アルヴァレス、コルブッチ作品の常連俳優ジーノ・ペルニーチェら。『夕陽のガンマン』(1965)のガイ・ギャラウェイ役で全てのマカロニファンにその独特な容姿を印象づけたホセ・テロン・ペニャランダも、ジャクソンの手下のガンマン・リンゴ役で登場している。
 『荒野の用心棒』でイーストウッドのポンチョ姿を考案、数多くのマカロニウエスタンでセット建造から衣装、美術全般を支えたカルロ・シーミが、美術と衣装を担当。黒のインバネスコートにカウボーイハット、マフラーを巻いた復員兵あがりのガンマン、ジャンゴをスタイリッシュに創造した。
 棺桶の中から取り出したマシンガンによる一斉掃射は当時の観客の度肝を抜いたが、小道具の銃器を担当したのはスタントマン出身で『殺しが静かにやって来る』(1968)、『盲目ガンマン』(1971)などに役者としての出演経験もあるレモ・デ・アンジェリス。フランスのミトレイユーズ機関砲をイメージに、手回しによるガトリングガンとはまた異なる、映画オリジナルのマシンガンを製作した。
 『続 荒野の用心棒』公開辺りから空前のマカロニ・ウエスタン・ブームが到来。無数の亜流“ジャンゴ”映画も登場したが、コルブッチは本作以降、“ジャンゴ”のキャラクターを流用することは一度も無かった。


(蔵臼金助)

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