
【Chapter 16】
古いが豪奢なつくりのリビングで、マホガニーの広いテーブルをカウボーイハットのならず者たちが囲む。腕を組んで立つゲールの左隣、キャットが羽根ペンの羽根を口元で遊ばせている。
「山賊連中は十人ちょっとってとこだ。稼ぎを考えりゃ楽なもんさ」
キャットは斜めにゲールを見上げて窺うように言う。
「でも、こっちも人数は出し惜しみしないほうがいいと思うけど」
ゲールは黙って腕組みを解き、一度テーブルを離れて、消えた暖炉の上から削りかけの銀色のプレートとヤスリを手にする。
「続けろ」
短く促すゲールの背中にキャットは軽く肩をすくめ、手下たちに対しておどけるように片眉を上げる。そしてコートのポケットから折り畳まれた紙を取り出す。身を乗り出し、ペンを持ったままテーブルの上に広げる。
「とにかく、頭を狙わなきゃ儲けにならない」
そこにはパウラの顔と名前、それに七千ドルの金額と『生死を問わず』の文字が並ぶ。
あばら屋の中、料理の残る食器が並んだ大きく粗末なテーブルをメキシコ人が囲む。上座にはパウラがどっかりと腰を下ろし、その右隣にレダーナが立つ。シェリーはその場におらず、パウラは両手でゲールの手配書を広げ持っている。
「まず、向こうは二十人以上だ。三十人は超えないだろう。こっちは何人だ?」
左目の動きのみでその場にいる人間の顔を見渡し、レダーナは尋ねる。顎を上げてパウラが答える。
「全部で十二人だ、ロシータ、お前も入れて」
「数が違いすぎる」
パウラの手下の一人である女が、棘のある声でレダーナに言う。頷く顔がいくつかある。
「正面切ってやり合うわけじゃない」
レダーナは目を細め、並んだ食器を端に寄せてテーブルの上にスペースを作る。
「アジトに直接攻め込むんだ」
手配書をひっくり返し、裏にペンで丸印を書きつけながらキャットが言う。
「南と西は岩場に遮られてる。だから北と東に分かれて囲む」
カーブを描く線を引き、丸印に向かって何本もの矢印を書き込む。
「向こうは襲撃を受けるだなんて思ってない。一層有利ってことさ」
前に倒していた身体を起こし、キャットはゲールを横目で窺い見る。ゲールは暖炉に片肘をつき、歪なバッジを削っている。
パウラの手下に用意させたチョークで、レダーナはテーブルの上に直接、線を引いた。
「やつらは定期的に、我々のいるこの近くを通る」
線から少し離れた場所にバツ印をつける。そのバツ印を四角く囲む。
「周りに罠を作っておいて、ここに誘き寄せる」
「罠か。そんなことをしてる余裕があるのかい」
パウラは手配書を手下に押し付けながらガラガラ声で問う。レダーナは囲みを二重にしながら返す。
「あまりない。だから簡単なものでいい。連中を崩しておいてそこを狙う」
チョークをテーブルに置き、手の粉を払う。まずパウラを見下ろし、それから再び手下たちの顔を順次見て、薄く微笑む。
「効果を上げるためにも、狙う時間は夜だ」
ペンを紙の上に投げ、キャットが腰に手を当てる。
「陽が落ちてから一気に馬で攻める。気づかれにくいし、上手くいけば寝込みを襲える」
「火でもつけりゃ早いぜ」
手下の男が一人、横から案を挟む。キャットは片手で自分の頬をさする。
「確かにね。ただ、顔がわからなくなると賞金が貰えなくなる」
そう言ってまたちらりとゲールに視線を流す。ゲールは削り終えたバッジのカスを息で吹き飛ばす。
「目的は山賊退治じゃない。カネだ。それを忘れるんじゃねえ。生かして捕まえたって一緒だ」
バッジを見つめたまま、その場のすべてに向かってゲールは念を押す。ヤスリを暖炉の上に置き、歪なバッジを上着の胸ポケットに入れながら、テーブルへ戻ってくる。
「だが、悪くないな」
裂けるような不吉な笑みが、ゲールの口元に浮かぶ。
「よし、お前ら!」
パウラは椅子から立ち上がり、サーベルのように腰にさしている馬鹿長いコルトを振りかざした。笑い混じりの品のない割れ声で、手下に向かって叫ぶ。
「アメリカ野郎《グリンゴ》狩りだ!」
「悪くない」
ゲールは手下たちを見回すような、しかしそこにいる誰をも見ていないような、暗く鋭利な眼差しで同じ言葉を繰り返した。低くねじ伏せるような声で笑う。
「メキシコ人狩りだ」
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